「財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」の改正」及び「公開草案に対するコメントの概要及び対応」の公表について

 日本公認会計士協会(JICPA)は、2023年8月4日、「財務報告内部統制監査基準報告書(以下「内基報」という)第1号「財務報告に係る内部統制の監査」の改正」及び「公開草案に対するコメントの概要及び対応」を公表しました。
 本改正は、2023年4月7日に企業会計審議会から公表された「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(以下「意見書」という。)を受けて、所要の見直しを行ったものです。

■ 意見書公表の背景(内部統制基準及び実施基準の改正の背景)

 内部統制報告制度が2008年4月1日以後開始する事業年度に適用されて以来、財務報告の信頼性の向上に一定の効果があったと考えられる一方で、経営者による内部統制の評価範囲外で開示すべき重要な不備が明らかになる事例や内部統制の有効性の評価が訂正される際に十分な理由の開示のない事例が一定程度見受けられており、内部報告制度の実効性に関する懸念が指摘されていることや、国際的な内部統制の枠組みの改訂に対応して、内部統制の実効性向上を図る観点から、内部統制基準及び実施基準の改訂に関する議論が行われ、本意見書が公表されました。

■ 意見書の概要(内部統制基準及び実施基準の改正の概要)

(1) 内部統制の基本的枠組み(内部統制基準及び実施基準Ⅰ)
  1. 報告の信頼性
    • 内部統制の目的の一つである「財務報告の信頼性」を「報告の信頼性」に変更
    • なお、「報告の信頼性」には「財務報告の信頼性」が含まれ、金融商品取引法上の内部統制報告制度は、あくまで「財務報告の信頼性」の確保が目的であることを強調
  2. 内部統制の基本的要素
    • 「リスクの評価と対応」において、不正に関するリスクを考慮することの重要性や考慮すべき事項の明確化
    • 「情報と伝達」において、情報の信頼性の確保におけるシステムが有効に機能することの重要性の記載
    • 「ITへの対応」において、ITの委託業務に係る統制の重要性が増していること、情報システムに係るセキュリティ確保の重要性の記載
  3. 経営者による内部統制の無効化
    • 内部統制の無効化に対する適切な内部統制の例示
    • 経営者以外の業務プロセスの責任者による無効化リスクの可能性の記載
  4. 内部統制に関係を有する者の役割と責任
    • 監査役等については、内部監査人や監査人との連携、能動的な情報入手の重要性を記載
    • 内部監査人については、熟達した専門的能力と専門職としての正当な注意、取締役会及び監査役等への報告経路の確保の重要性を記載
  5. 内部統制とガバナンス及び全組織的なリスク管理
    • 一体的な整備及び運用の重要性、これらの体制整備の考え方として、3線モデル等の例示
(2) 財務報告に係る内部統制の評価及び報告(内部統制基準及び実施基準Ⅱ)
  1. 経営者による内部統制の評価範囲の決定
    • 内部統制の評価範囲の決定において、財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性を適切に考慮すべきこと(リスク・アプローチ)を改めて強調するため、評価範囲の検討における留意点を明確化。なお、評価対象とする重要な事業拠点や業務プロセスを選定する指標について例示されている「売上高等のおおむね3分の2」や「売上、売掛金及び棚卸資産の3勘定」を機械的に適用すべきではない旨を記載(これらの段階的な削除を含む取扱いは、今後の検討予定)
    • 評価範囲外から開示すべき重要な不備が識別された場合、当該開示すべき重要な不備が識別された時点を含む会計期間の評価範囲に含めることが適切である旨の明確化
    • 計画段階や状況の変化等があった場合において、評価範囲について監査人は経営者との協議を通じて指導的機能を発揮することが適切である旨の明確化
  2. ITを利用した内部統制の評価
    • ITを利用した内部統制の評価について留意すべき事項を記載(評価に関しては特定の年数を機械的に適用すべきものではない旨等)
  3. 財務報告に係る内部統制の報告
    • 内部統制報告書において記載すべき事項の明示
    • 重要な事業拠点の選定において利用した指標の一定割合等の決定の判断事由等を記載することが適切である旨を記載
    • 前年度の開示すべき重要な不備の是正状況を付記事項において記載すべき旨を追加
(3) 財務報告に係る内部統制の監査(内部統制基準及び実施基準Ⅲ)
  1. 財務諸表監査において入手した監査証拠の活用
    • 経営者による内部統制の評価範囲の妥当性を検討するに当たっては、財務諸表監査の実施過程において入手している監査証拠も必要に応じて、活用することを明確化
  2. 経営者との適切な協議
    • 評価範囲に関する経営者との協議については、内部統制の評価の計画段階、状況の変化等があった場合において、必要に応じて、実施することが適切であるとしつつ、監査人は独立監査人としての独立性の確保を図ることが求められることを明確化
    • 評価範囲の決定は経営者が行うものであり、経営者との協議は、監査人による指摘を含む指導的機能の一環であることを明確化
  3. 内部統制評価の範囲外から内部統制の不備を識別した場合
    • 財務諸表監査の過程で、経営者による内部統制評価の範囲外から内部統制の不備を識別した場合には、内部統制報告制度における内部統制の評価範囲及び評価に及ぼす影響を十分に考慮するとともに、必要に応じて、経営者と協議することが適切である旨を明確化

本改正の概要(内基報第1号の改正の概要

(1) 改正作業の基本方針

本改正は、意見書(内部統制基準及び実施基準)の改正内容に対応した改正であり、また監査基準報告書315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」(2022年6月改正)、監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」(2023年1月改正)の改正等の内容との不整合が生じないよう所要の見直しも行われています。

(2) 改正論点

本改正においては、内部統制基準及び実施基準の改正内容への対応として、内基報第1号の各項目の修正や追加、明確化等が行われています。詳細については、JICPAの該当HP(文末のリンク先参照)に掲載されているPDF資料「参考資料(改正の概要)」の9ページ以降をご参照ください。
なお、内部統制基準及び実施基準の改正論点への主な対応として、例えば、「経営者による内部統制の評価範囲の決定」(上述の記載の下線部分)に対して、内基報第1号の本改正では以下の対応が行われています。

  • 66項の修正(企業の事業目的に大きく関わる勘定科目として「例えば、一般的な事業会社の場合、原則として、売上、売掛金及び棚卸資産」の記載を削除。99項に売上、売掛金及び棚卸資産はあくまでも例示であり、機械的に選定するのではなく、個々の業種、企業の置かれた環境や事業の特性等に応じて経営者が適切に判断する旨を記載)
  • 75項の修正(全社的な内部統制の評価結果を踏まえて、長期間にわたり評価範囲外としてきた特定の事業拠点や業務プロセスについても、評価範囲に含めることの必要性の有無を考慮することを追加など)
  • 「Ⅶ3.業務プロセスに係る内部統制の評価範囲の検討」(89項~112項)の全体的な見直し(91項の重要な事業拠点の選定に係る<参考例1>を削除し、付録7として「重要な事業拠点の選定方法に係る参考例」として以下の5つの設例を追加など)
    • 【設例1】売上高(内部取引消去後)を選定指標とする場合(全社的な内部統制が良好なケース)
    • 【設例2】売上高(内部取引消去後)を選定指標とする場合(全社的な内部統制のうち、良好ではない項目があるケース)
    • 【設例3】売上高(内部取引消去後)に加えて売上原価を追加的な選定指標とする場合
    • 【設例4】売上総利益を選定指標とする場合
    • 【設例5】売上高(内部取引消去後)に加えて税引前当期純利益を追加的な選定指標とする場合

また、本改正に当たっては、2023年4月21日から6月23日までの間、草案を公開し、広く意見が求められました。公開草案に寄せられたコメントの概要とその対応も併せて掲載されていますが、実務に影響を与えるような修正はありません。

(3) 適用

本改正については、2024 年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度における内部統制監査から適用する、とされています。

詳細な内容は、以下のウェブサイトを参照ください。
【内部統制基準及び実施基準改定の意見書】 (金融庁 2023/4/7)
https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230407/20230407.html
【内基報第1号の改正】 (JICPA 2023/8/4)
https://jicpa.or.jp/specialized_field/20230804efg.html

以上

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