改正「退職給付に関する会計基準」の適用初年度における留意事項

2013年09月05日 更新

この原稿を執筆しているのは丁度世間が夏休みに入る直前でして、第1四半期の決算短信や四半期報告書が毎日数多く発表されているところです。今回のコラムは、これらの適時開示を閲覧していて少し気になった開示内容がありましたので、そのことに触れてみたいと思います。

さて昨年、「退職給付に関する会計基準(企業会計基準第26号)」および「退職給付に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第25号)」が改正されています(平成24年5月17日)。この改正により、従来は未認識差異としてオフバランスしていた「数理計算上の差異」および「過去勤務費用」を負債計上することになります(改正内容には、退職給付見込額の期間帰属方法の見直しや割引率の見直し等も含まれますが、今回のコラムでは詳しく触れないことにします)。

適用開始については、「平成25 年4 月1 日以後開始する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用する。ただし、平成25 年4 月1 日以後開始する事業年度の期首から適用することができる。」とされており、これを受けて平成25年4月1日開始の第1四半期から早期適用を採用した会社がいくつか見受けられます。

積極的に早期適用する会社が現れるなかで、8月8日(木)の適時開示に当該早期適用に係る会計処理について修正を発表している会社が2社ありました(仮にA社とB社としておきます)。内容はどちらも包括利益計算書に計上する「退職給付にかかる調整額」の修正でした。
具体的な金額はといいますと、以下のとおりです。

(A社)
修正前: 28,493百万円
修正後:△   909百万円
影響額: 29,402百万円

(B社)
修正前:△24,739百万円
修正後:△   345百万円
影響額: 24,394百万円

どちらもすごい金額です。

ではなぜ、このような多額の修正事項が発生したのでしょうか。原因は何だったのでしょうか。

各社の適時開示資料にはその原因が推定できるような情報については何も記載されていません。しかし、四半期報告書を見ますと少し見えてくるものがあります。

B社では「会計方針の変更」の注記に「早期適用にかかる影響額をその他の包括利益累計額の退職給付に係る調整累計額に加減しています。(中略)この結果、期首のその他の包括利益累計額が21,959百万円減少しています。」と開示しています。

ここで気付くことは、会計処理の変更に伴う包括利益累計額への影響額は「期首」調整すべきものであり、包括利益計算書を通して包括利益累計額に反映させるものではないということです。

これより、上記2社の修正は、会計処理の変更にともなう影響額を期首調整せずに、当期の包括利益計算書で認識させたことが原因であったと推定できました。

では、実際の基準にはどのように定められているのでしょうか。

「退職給付に関する会計基準」第37項には次のように記載されています。

「本会計基準を適用するにあたり、過去の期間の財務諸表に対しては遡及処理しない。本会計基準の適用に伴って生じる会計方針の変更の影響額については、第34項の適用に伴うものは純資産の部における退職給付に係る調整累計額(その他の包括利益累計額)に、第35 項の適用に伴うものは期首の利益剰余金に加減する。」

ここでいう第34項が「数理計算上の差異」および「過去勤務費用」を負債計上することを指しています。

確かに、「期首の包括利益累計額に加減する」とも「包括利益計算書を通さない」とも明確な記載はありません。従って、この基準を読む限りでは「包括利益計算書を通すのか通さないのか?」という疑問が生じても仕方ないような気もします。

ですが、昨年の基準改正時に監査法人を始めとして「会計方針変更時の調整額は包括利益計算書を通さない」といった注意喚起がなされていましたし、今回の修正発表の事実からも(また、レビュー済みの四半期報告書の開示内容からも)「包括利益計算書と通さずに直接、包括利益累計額を増減させる」ことが適正な方法であることがはっきりとしました。

皆様も当該基準の適用時には留意いただければと思います。

(公認会計士 中山直人)