監査基準の改訂及び監査における不正リスク対応基準

2013年06月10日 更新

会計トピックスで既報の通り、「不正リスク対応基準」が公表されました。平成26年3月決算の監査から適用されますが、監査人としても会社としても対応が必要になりますので、簡単に内容を見ていきます。

Ⅰ.経緯

近時、金融商品取引法上のディスクロージャーをめぐり、不正による有価証券報告書の虚偽記載等の不適切な事例が相次いでおり、監査基準をめぐる国際的な動向を見ても、重要な虚偽の表示の原因となる不正(以下単に「不正」という)に対応した基準の見直しが継続的に行われており、また、各国において、職業的専門家としての懐疑心の重要性が再認識されていることから、企業会計審議会監査部会では不正リスクに対応した監査手続等を検討し、監査基準等の見直しの審議を行い、これを「監査基準の改訂及び監査における不正リスク対応基準」として公表することとなりました。

Ⅱ.不正リスク対応基準の設定に伴う監査基準の改訂点

1.審査

不正リスク対応基準では、一定の場合には、通常の審査より慎重な審査が求められることになりましたが、一方で、特定の目的のために監査が義務づけられ、監査報告の対象となる財務諸表の社会的影響が小さく、監査報告の利用者も限定されているような場合には、品質管理の方針及び手続において、意見が適切に形成されていることを確認できる他の方法が定められている場合には、審査を受けないことができることが明記されました。

2.監査役等との連携

不正リスク対応基準では、不正リスクの内容や程度に応じ、適切に監査役等と協議する等、監査役等と連携を図らなければならないとされました。
現行の監査基準においては監査役等との連携に関する規定がありませんが、監査における監査役等との連携は、不正が疑われる場合に限らず重要であると考えられることから、監査人は、監査の各段階において、適切に監査役等と協議する等、監査役等と連携を図らなければならないことが明記されました。

Ⅲ.「監査における不正リスク対応基準」の概要

1.本基準の基本的な考え方

(1)財務諸表の虚偽の表示は、不正又は誤謬から生じますが、本基準においては、監査人が財務諸表監査において対象とする重要な虚偽の表示の原因となる不正について取り扱っています。したがって、本基準は、重要な虚偽の表示とは関係のない不正は対象としていません。
(2)財務諸表監査の目的を変えるものではなく、不正摘発自体を意図するものでもありません。
(3) 被監査企業に不正による財務諸表に重要な虚偽の表示を示唆するような状況がないような場合や監査人において既に本基準に規定されているような監査手続等を実施している場合には、現行の監査基準に基づく監査の実務と基本的には変わりません。
(4)二重責任の原則に変更はありません。

2.不正リスク対応基準の位置付け

(1)不正リスク対応基準の適用範囲

金融商品取引法に基づいて開示を行っている企業(非上場企業のうち資本金5億円未満又は売上高10 億円未満かつ負債総額200 億円未満の企業は除く。)に対する監査

(2)不正リスク対応基準の位置付け

現行の監査基準、監査に関する品質管理基準からは独立した基準であると位置付けられました。本基準は、上場企業等の不正リスクへの対応に関し監査基準及び品質管理基準に追加して準拠すべき基準であり、監査基準及び品質管理基準とともに、一般に公正妥当と認められる監査の基準を構成し、監査基準及び品質管理基準と一体となって適用されるものです。

(3)不正リスク対応基準と中間監査及び四半期レビューとの関係

本基準は、年度監査のみではなく、基準上不正に関する実証手続が定められている中間監査にも準用されます。四半期レビューについては、年度監査と同様の合理的保証を得ることを目的としているものではないことから、本基準は四半期レビューには適用されません。

3.不正リスク対応基準の主な内容

(1)不正リスク対応基準の構成

本基準は、①職業的懐疑心の強調、②不正リスクに対応した監査の実施、及び③不正リスクに対応した監査事務所の品質管理の三つから構成されます。

(2) 職業的懐疑心の強調

監査人は、不正リスクに対応するためには、誤謬による重要な虚偽表示のリスクに比し、より注意深く、批判的な姿勢で臨むことが必要であり、監査人としての職業的懐疑心の保持及びその発揮が特に重要であると考えられます。このため、本基準においては、「職業的懐疑心の強調」として冒頭に掲記し、不正リスクの評価、評価した不正リスクに対応する監査手続の実施及び監査証拠の評価の各段階において、職業的懐疑心を発揮することを求めています。さらに、監査手続を実施した結果、不正による重要な虚偽の表示の疑義に該当するかどうかを判断する場合や、不正による重要な虚偽の表示の疑義に該当すると判断した場合には、職業的懐疑心を高めて監査手続を実施することを求めています。

(3)不正リスクに対応した監査の実施

本基準においては、監査の各段階における不正リスクに対応した以下のような監査手続等を規定しています。①不正リスクに対応した監査計画の策定、②企業が想定しない要素の組み込み、③不正リスクに対応して実施する確認、④不正リスクに関連する監査証拠、⑤不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況、⑥不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断した場合の監査手続、⑦専門家の業務の利用、⑧不正リスクに関連する審査、⑨監査役等との連携、⑩監査調書等

(4)不正リスクに対応した監査事務所の品質管理

本基準においては、監査実施の各段階における不正リスクに対応した監査手続を実施するための以下のような監査事務所としての品質管理を規定しています。①不正リスクに対応した品質管理のシステムの整備及び運用、②監査契約の新規の締結及び更新、③不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断された場合の審査、④不正リスクへの対応状況の定期的な検証等

4.実施時期等

不正リスク対応基準は、平成26 年3 月決算に係る財務諸表の監査から実施されます。なお、不正リスク対応基準中、第三 不正リスクに対応した監査事務所の品質管理については、平成25 年10 月1 日から実施されます。また、不正リスク対応基準は、中間監査に準用し、平成26 年9 月30 日以後終了する中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査から実施されます。

(公認会計士 乙藤貴弘)