2013年04月05日 更新
パーチェスプライスアロケーション(PPA)という実務があります。端的に言いますと、企業結合で生じたのれんに無形資産として識別可能なものがあれば、資産価値を評価して個別に認識するというプロセスです。このPPAで認識される代表的な無形資産に「ブランド」があります。企業が同業他社等を買収するM&Aで、被買収企業に存在するブランドが無形資産として計上されるケースが多いようです。
PPAにおける無形資産評価は、海外で確立された実務が日本でも採用されており、ブランドの場合は主としてDCF法に基づく評価が行なわれます。ブランドは経済的価値を持つことが明らかですが、収益への直接的な貢献度や効果の及ぶ期間(耐用年数)を見積もることが困難であるという特徴があります。また、依然として日本と海外(USGAAP、IFRS)で会計処理が異なります。最大の違いは、日本では一定年数での償却が求められるのに対し、海外では耐用年数を確定できない場合は非償却資産とし随時減損検討を行なう(但し、耐用年数が確定した時点で償却開始)となる点です。
ここで素朴な疑問ですが、経済的実態を勘案してブランドに耐用年数を設定することがそもそも可能かという点です。あくまで個人的見解ですが、買収されたブランドの残存期間を客観的に見積ることができるケースは少なく、多くの場合「耐用年数を確定できない」とみるのが合理的なのではないかと思います。
このようなブランドの測定と評価を、海外と日本のPPAの実務に当てはめるとどうなるでしょうか。海外では、耐用年数を確定できない場合、DCF法による評価において将来CFの見積期間を特定しないものと考えられます(永続価値法)。「耐用年数がわからないから期間は特定しない。償却もしない。但し、減損していないかどうか随時検討する」というアプローチであり、理論的には一貫しているように思えます。
一方、日本ではどのような資産であっても耐用年数を確定し償却を行なわなければなりません。ブランドであれば、大体10年から20年といったところでしょうか。では、20年で償却すると決めたブランドをDCF法で評価する場合、将来CFの見積期間は何年が妥当でしょうか。おそらく理論的には20年ということになるでしょう(計上と償却は別、つまりDCF法では将来CFの年限を設けず、償却は20年で行なうという実務もあり得るとは思いますが)。DCF法では、見積期間は重要な前提条件であり計算結果に大きな影響を与えます。このケースでは、他の条件を同一とすれば、日本基準に基づくブランドの計上額は海外でのそれを大きく下回ると思われます。
こうして見てみると、日本基準における無形資産に関する規定の見直しがやはり必要であるように思います。ご存知のように、現在、企業会計基準委員会等で基準の改訂に向けた審議が続けられており、無形資産の取扱いに関する海外との差異も解消されるとみられています。今後の動向に注目したいと思います。
(公認会計士 大和田 寛行)