2023年03月03日 更新
加藤 りさ
「一月往ぬる二月逃げる三月去る」とはよく言われるが、慌ただしく年度末を迎えようとしている。同じく慌ただしく過ぎた昨年、年の瀬も迫った2022年12月27日に金融庁金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループ(DWG)から四半期開示を四半期決算短信に「一本化」するための具体策を提言する報告書が公表された。これにより2018年6月に公表された「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告―資本市場における好循環の実現に向けて-」の中で取り扱われ、この時点では「四半期開示制度の見直しは行わない。」としていた論点について、その後 議論を重ねたうえで、昨年6月のDWG報告において四半期開示見直しの方向性と一本化に向けた検討課題の検討結果が公表されたことになる。
一度は「見直しを行わない」としてその理由についての論点の整理もされたものの、コロナ禍で経済社会が大きく変動する中で発足した岸田内閣の所信表明(2021年1月)に開示の見直しが盛り込まれたことにより、先のDWGが再開され、四半期開示の見直しへと大きく舵を切り直し、いよいよ本年の通常国会に提出される運びとなった。この間、関西経済連合会からは「四半期開示制度の義務付け廃止に向けた緊急提言」が発表されるなど、「企業負担の軽減」を求める声の後押しもあり、見直しへの流れが本流となったと思われる。四半期開示制度は1999年11月にマザーズ市場での四半期情報開示の義務付けが行われて以降、段階を経て2006年6月に、金融商品取引法制定により上場企業への四半期報告が法制化された。
当初のその目的は一言でいうと「投資家判断に資する情報の【適時開示】」であった。また、四半期毎の開示により「同業他社との迅速な業績比較に有用」「事業環境の変化に即応した経営に必要」「海外における開示制度と整合的」等とその意義が唱えられた。制度の導入時には、企業も私たち会計士も相当な時間と労力を割いたと記憶しているが、2008年の導入後は、2度の簡素化を経ている。一度目にあたる2010年では、東証による四半期決算短信の簡素化とともに、企業会計基準委員会(ASBJ)・金融庁による「四半期報告書の簡素化」が行われた。折しもリーマンショックによる世界的な混乱からの立ち直りをはかるためにも、欧州等と比べて開示に係る負担が過大であり、作成者の負担軽減が検討された結果であった。この時にも、当初目的が毀損して「開示の後退」と受け取られてしまう懸念がないことが検討課題とされていた(DWG報告2018年6月)。そして二度目は2017年の四半期開示の簡素化で、東証等の決算短信・四半期決算短信が簡素化された。2008年に実施されてより15年で大来な転換期を迎える四半期開示制度では、金商法上の第1、第3四半期報告書が廃止され、一本化される四半期短信については会計士による四半期レビューは「任意とする」こともDWG報告書に記載されている。四半期開示制度により、四半期レビューが会計士としての日々の仕事として、一個人としては馴染み切っているだけに、15年ぶりの大きな変化が到来する感がある。
人間は、日々知らず知らずのうちに慣れ親しんだもの、当たり前の毎日が明日も来月も来年もやってくると思い込んでいる。しかしそれは幻想であり、社会も経済も刻々と変化している。私には趣味の分野で購読している隔月発刊の雑誌があるのだが、2003年に発刊されたこの雑誌が昨年11月に、突然休刊になった。昨今の出版不況や電子書籍の普及を考えれば想定外とは言えない事態ではあったのだが、この時にそのことを実感した。その後、今月に入り、編集長や有志により、再発刊のためのクラウドファンディングが始まった。協力者を募るためのインスタライブ等を視聴すると、単なる再発刊ではなく、更に良いものを作りたいとの気運に溢れていることに感動しささやかながら協力することにした。もう読めないなと落胆するだけではなく、こうして自分もその再興の力になれるのだということにも、時代の変化を実感した。
変化する社会、変化する制度の中でも、翻弄されない成長する会計士としてお役に立てるよう努力してまいりたいと思う。
以 上