2022年06月27日 更新
板垣 太榮三
2022年3月31日決算日の会社から企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」という。)が適用されました。このため多くの会社、特に上場企業では、自社の収益認識に関して見直し作業に多大な労力と時間・費用を要したことと推察されます。
一般的な事業会社では、収益認識の見直しは、自社の製・商品の販売収益やサービスなどの役務収益を、5ステップアプローチを適用し、どの時点でいくらの収益を認識すべきかということに主眼を置いた見直しになったことと思われます。
ところが一部の金融機関(主に信用金庫と信用組合)では、収益認識会計基準の適用に際しての見直しが、消費税に関する会計方針及び会計処理の見直しであったと聞くと、えっと思われる方もおられるのではないでしょうか。実は一部の金融機関では、従来、消費税の会計方針を「税込方式」で行う、つまり、損益計算書上の収益費用が消費税込みで計上する方式が採用されていました。この点、一般のほとんどの事業会社は消費税の会計方針は「税抜方式」であるため、収益認識会計基準が適用される際に問題認識されることがありませんでした。
なぜ収益は消費税抜きで計上しなければならないか。それは収益認識会計基準第212項で「取引価格とは、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額(ただし、第三者のために回収する額を除く。)をいう(第 47 項参 照)としており、我が国の売上に係る消費税等は、第三者に支払うために顧客から回収する金額に該当することから、本会計基準における取引価格には含まれない。」と明確に定めているからです。
一部の金融機関では共同で使用する会計システムが税込方式のみとなっているため、会計システム上で税抜き処理できず、決算をどのようするか対応を迫られました。なぜ税込方式がデフォルトになっているかというと、金融機関の主な収益は、貸出金の利息収入や預け預金の利息収入、有価証券の利息配当金などであり、それらはすべて非課税取引となっており、金融機関で回収する振込手数料等などの課税売上割合が極めて低いからです。
会計システムに拠らずに、税込経理したものを税抜方式にするために決算補正をするのは実務的に面倒で、「税込方式」を採用する金融機関では当惑したことと推察されます。消費税の税務申告にしても、もともと税務は「税込方式」がデフォルトであり、消費税の免税事業者、簡易課税事業者、本則課税事業者の3つがあり、自社(自行)がどのタイプの事業者に該当するかで「税込方式」を「税抜方式」する方法も違い、そもそも免税事象者であれば、回収した消費税等は国等に納める必要はなく(誤解の無いように申し上げると免税事業者ではあっても自行で回収した消費税等と他社(他行)に支払った消費税等との差額は支払い過多になっており、仕入税額控除できる消費税は少額にとどまります)、結果的には「第三者のために回収する額」にはなりませんので、区分する必要があるのか不明なところです。簡易課税の場合では、決算での仕訳をどのようにするのか、収益側はいいとして決算処理だけで日常での税抜き処理を行わず決算だけで税抜き処理するのは、テクニカル的に難しいと思われます。特に「税抜方式」にすると固定資産の取得の際に発生する消費税の繰延処理に際して、繰延消費税というものが生まれるのでその会計的な対応と税務的な対応をしなければならなくなるケースがあります。さらに当期から「税抜方式」に移行した場合、過年度に遡及適用した場合の累積的影響額を、当期首の利益剰余金に加減し、当期首から新たな会計方針を適用することができると定められていますが、この累積的影響額の計算も実務的に煩雑なように思われます。たかが消費税、されど消費税です。
いずれにしろ当3月決算の会計及び会計監査はまだ続いていますが、「税抜方式」が原則的な会計方針であるべきところ「税込方式」によった金融機関があるのか、あるとしてその理由がどのように開示されるのか関心のあるところです。
以 上