非財務情報開示への新しい動きについて

2022年04月13日 更新

加藤 りさ

終わってみれば日本としては過去最高の18個のメダルを獲得し、目標に向けて努力し抜いた選手たちの姿に心動かされたものの、筆者個人としては、もやっとした感じの残る冬期オリンピックでした。
その最たるものが高梨沙羅選手の着用ウェア違反による失格問題でした。
競技後の抜き打ちでのテストの是非は別の議論に任せるとしても、ルールを作ること、ルールを守れるように周知することの難しさがここにもあることを実感しました。
ルールを作成する側の意図(目的)は、最終的には対象者がルールを理解し守れることをもって達成されるのは言うまでもありません。
会計の世界での新たなルール作りのトレンドとして挙げられるのは「サステナビリティ報告基準」の策定に向けたISSBの設立があり、国内においては、2021年6月に経産省が「非財務情報の開示指針研究会」を立ち上げています。
昨今のサステナビリティを含む非財務情報の開示への注目は以下のような流れで作られてきたと考えられます。
2015年採択のパリ協定で気候変動への世界的な取り組みを数値目標として掲げたことにより注目を集めたことを端緒として同年9月の国連サミットで採択されたSDGs、2018年3月にEUで採択されたサステナブルファイナンスの行動計画の採択など国際社会の動きに押される形で、国内においては2020年の「2050年カーボンニュートラル」宣言もあり、一気にその動きが加速しているように思えます。
金融庁からは2021年12月にサステナビリティ情報に関する開示に特化した「記述情報の開示の好事例集2021」が公表されています。
サステナビリティ情報は非財務情報ですが、定性的情報に留まらず、定量的な財務影響の情報などがポイントとして挙げられています。
端緒となった気象問題を含め、目標となる年(2030年、2050年)への数値目標を各企業が立て、その実現への取り組みを投資家に開示をしていくというのは、企業としての社会貢献を明確にし、投資判断の材料を提供するという意味では、情報を開示する側にも情報を利用する側にもメリットはあると考えます。
そもそも有価証券報告書で取り扱われる会計情報は過去の経営成績であり、期末日時点での財政状態に関わるものが主となります。
これを踏まえて市場においては「この企業はこの先どうなっていくのか」を予測すること、すなわち開示情報をどう読み取るかは投資家の自己責任に委ねられますがそのための更なる将来情報が求められていると言えます。
つまり会計情報の記述に留まらず企業としての戦略や現在有している「稼ぐ力」の今後の見通しなどを企業に開示してもらうためにはそのための仕組みが必要になるため、開示基準の整備が進められている状況と言えます。
自社の「稼ぐ力」としての自社の強み弱みを経営者が分析しているのは当然ながら、どこまでを開示するのかが問題となることは間違いありません。
経産省の「非財務情報の開示指針研究会」中間報告では開示内容に対してのオーナーシップ(主体性)の発揮による規範性(開示基準から求められる事項を満たす)と独自性(サステナビリティ関連情報開示の特徴を生かす)バランスの最適解を見出すべきことを企業に求めています。
企業が自社の強みであっても開示したくないと判断する面と開示してもよいと判断する面とがあると考えられます。
前者は真似しやすく効果が出やすい事項であり、後者は①容易に真似ができない②他社が真似しても同様の効果が出ることが期待できない③ごく一般的な多くの会社で導入済の事例などが考えられます。
前者を避けたとしても後者の③ばかりが開示されているのでは投資家の期待に応えられないばかりか、かえって企業価値を損ねてしまいます。
このため、前者の開示をどこまでの具体性をもって記述するかの高度な判断とともに文章作成上の技術力も必要となります。
前述の中間報告でも「開示基準の適用段階における懸念として【開示の消極化や開示の定形化(ボイラープレート化)】」が挙げられています。
新たな報告基準適用までのカウントダウンは始まっていますが、これらを踏まえて、どのような開示が望ましいのかを好事例集等を学ぶなど、考え続けた分その成果となって表せる日が来ることは間違いありません。
4年に一度の晴れの舞台で、失格というとんでもない烙印を押された選手の悔しさは私のような凡人では計り知れないほどのものであると思いますが、その後のノルディックでの優勝でW杯通算63勝を挙げた高梨選手に心よりの拍手を送るとともに報われない努力はないという気持ちになりました。
会計にまつわる新ルールにも果敢に挑むその努力も必ず報われるものだと思います。

以 上