会計不正の動向

2021年10月11日 更新

乙藤 貴弘

Ⅰ.経営研究調査会研究資料第8号の内容
 2021年7月29日に日本公認会計士協会は、「上場会社等における会計不正の動向(2021年版)」(経営研究調査会研究資料第8号)を公表しました。本研究資料は、上場会社及びその関係会社(以下「上場会社等」という。)が公表した会計不正の実態・動向を正確に捉え、かつ、定点観測ができるように、経営研究調査会フォレンジック業務専門委員会が、上場会社等により公表された会計不正を一定期間集計し、取りまとめたものであり、監査や不正調査に関与する公認会計士のみならず、公認会計士以外、例えば、企業等が参考にすることを期待しているとのことです。この「上場会社等における会計不正の動向」は2018年度版から毎年公表されていますので、興味のある方は是非ご参照ください。
 以下、簡潔に内容を説明し、考察していきたいと思います。

Ⅱ.会計不正の動向
1.会計不正の公表会社数
 2017年3月期以降、会計不正の発覚の事実を公表した上場会社数は、
2017年3月期は26社、2018年3月期は29社、2019年3月期は33社、2020年3月期は46社、2021年3月期は25社でした。
2020年3月期にはそれまでの30件前後から、約1.5倍になりましたが、2021年3月期は過去5年で最も少ない件数となりました。これはコロナの影響で会計士監査、会社内監査で現場に行くことができずにリモートによる対応が多かったため、不正発見の糸口に接する機会が少なかったことも一因と考えられます。もし実際に監査の有効性が低下しているのであれば、昨今データによる監査に重点が置かれていますが、再考が必要になってくると思われます。

2.会計不正の類型と手口
 会計不正は大きく「粉飾決算」と「資産流用」に分けられますが、ここ5年は約8割が「粉飾決算」で安定しています。
 粉飾決算のうち収益関連の会計不正が、2017年3月期には全体の63%でしたが、2018年3月期以降は4割前後で推移しています。これは監査が収益認識に重点を置いたため、収益関連の粉飾を避けて、架空仕入・原価操作、在庫の過大計上、経費の繰延など他の手口を選択したとも考えられます。

3.会計不正の上場市場別の内訳
 会計不正の上場市場別の内訳では、2020年3月期までは東証一部の割合が50%を超えることはありませんでしたが、2021年3月期は、東証一部の会社が18社で例年並みであるのに対し、東証二部以下の規模の比較的小さいその他の会社が7社であり、東証一部の割合が7割を超えています。その他の会社では2020年3月期に24件発覚していますが、2021年3月期では7件です。2021年3月期に発覚した不正は、2020年3月期に発生したものが多いと思われますが、2020年3月期の決算時点ではコロナ渦になっていて先行きが見通せない状況だったため、業績を良く見せようとする誘因が働かなかったことも一因と思われます。

4.会計不正の発覚経路
 過去5年の発覚経路は、子会社から親会社への事業報告の際に発覚するケース、決算作業プロセス等、会社が整備・運用している内部統制によるケースが最も多いです。不正の早期発見、未然防止の有効な手段である内部通報制度が2017年3月期には全体の18.4%を占めていましが、2021年3月期には4.3%と激減しています。通報者が通報後の会社での処遇に関して裁判を起こしているニュースが、通報を躊躇させているのかもしれません。

5.会計不正の関与者
 会計不正の関与者を、A経営者+管理職/B非管理職、a 単独/b共謀(外部共謀を含む)に分類すると、圧倒的に多いのはA経営者+管理職×b共謀(外部共謀を含む)の組合せです。複数の担当者による共謀や、経営者や管理者が内部統制を無効ならしめることは、内部統制の固有の限界であることは知られているとおりです。

6.会計不正の発生場所
 会計不正の発生場所を親会社、国内子会社、海外子会社に分けて集計されていますが、年度によって割合は一様ではありませんが、それぞれ一定割合を占めています。特に海外子会社は、地理的に遠く、親会社の管理が非常に難しいと思われます。現状発覚していない進行中の不正が世界中に存在している可能性があると思われます。

7.その他
本研究資料の最後には、粉飾決算と資産流用の方法が具体的に列挙されています。これらを参考にしていただき、監査業務または会社の不正防止に役立てて頂けましたら幸いです。
以 上