非財務情報と財務情報との結合の重要性

2021年08月16日 更新

松渕 敏朗

1.会計制度委員会研究資料第6号の内容
2021年4月15日に日本公認会計士協会は、「非財務情報の充実と情報の結合性に関する実務を踏まえた考察」(会計制度委員会研究資料第6号)を公表し、本研究資料においては、非財務情報の開示の質を高める要素として、非財務情報と情報の重要性並びに情報の結合性の重要性に焦点を当てて調査研究を行っています。
最近公表された規則やガイドラインにおける結合性に関する要求事項を確認しており、結合性が求められる背景を考察したほか、概括的な分析と課題の提示にとどまることなく、日々の実務において活用できる知見の獲得をねらいとして、味の素、カルビー、ユニリーバ及びBASFの4社を題材にして事例の分析を行っています。
その成果として、記述情報の好事例に共通的な要素を抽出し、結合性を高める上での要点を踏まえて、結合性強化のための枠組みを提案しています。
さらに、開示の充実によって対話の深化を促すとともに、対話から得られた洞察を企業の経営に還元するという好循環により持続的な価値創造を実現することが資本市場における対話の意義であるとの考えから、結合性を高めることによる開示の充実の先にある取組課題についても考察し、その解決のヒントとなる視点を紹介しています。今回は、情報の結合性の枠組みとその強化に言及したいと思います。

2.情報の結合性の枠組みとその強化
本研究資料では、企業情報開示において情報間の結合性がなぜ求められるのか、求められる結合性の側面を考察し、こうした情報の結合性に対する要請を踏まえ、結合性を高めるべき企業報告の側面を整理しています。情報開示における結合性強化のための枠組みの要点は、以下の4点です。
(1)ビジネスモデルと経営戦略を軸とする結合性
企業報告において、企業の価値創造ストーリーを伝達することの重要性が高まっており、自社の強みや外部環境の変化の状況を踏まえ、将来に向けてどのような価値を創造し、どのように企業価値を高めていくか、リスクに対してどのように対処していくかといった未来志向の包括的な情報開示が必要とされています。結合性強化のためには、企業の価値創造ストーリーを伝達する観点から、企業のビジネスモデルと経営戦略を軸とする情報の体系化が求められるとしています。
(2)財務情報と非財務情報の結合性
財務情報は、企業のビジネスモデルの構築、戦略の立案及び遂行、リスクへの対応といった一連の経営行動の帰結としてのある時点における結果を表すものであり、一方で、非財務情報は、財務情報のコンテクストを提供します。利用者である投資家は、財務 情報をそのまま利用するのではなく、ビジネスモデル、戦略、当年度に発生した事象や企業の経営行動や判断についての背景の理解に基づき、自らの企業価値評価モデルに活用するので、財務情報コンテクストの提供が必要とされています。結合性強化のためには、企業の価値創造ストーリーを伝達する観点から、ビジネスモデル、戦略、リスクに関して、財務情報と非財務情報を組み合わせて効果的に説明することが求められます。経営 環境の見通し、将来のビジネスモデル、中長期戦略、リスク認識に関する情報は、将来の財務的な価値につながる財務先行情報としての性格を有します。財務報告における会計上の見積りは、こうした将来志向の情報を基礎とするものであり、情報の時間軸を考慮しつつ、財務・非財務情報の結合性を高めていくことが重要となるとしています。
(3)定量 KPI(評価)と定性記述の結合性
従来から財務諸表と 経営者による財務、経営成績の分析であるMD&A の結合性は求められてきましたが、MD&A においては、財務だけでなく非財務業績も含めた分析、評価、考察に関する情報開示が必要としています。結合性を強化し、戦略の進捗状況や業績を表す KPI については、実績数値だけでなく、当該実績及びその背景にある要因に関しての経営者による分析、評価を提示することによって、情報利用者が戦略の進捗や業績に対する深い理解を獲得し、自らの評価に反映する際の手助けとなります。
(4)情報の要素・項目間の結合性
多種多様な情報が開示されるようになっている開示実務においては、情報の要素・項目間での結合性が求められます。

3.開示のさらなる充実に対する公認会計士の役割
非財務情報は、財務情報を補足する補助的な役割のみならず、2次元的情報である財務情報を企業の持続可能性という時間軸を醸成し、中長期的な企業価値に関するステークホルダーに有効な情報を提供し、そのコミュニケーションのために不可欠な要素となっています。非財務情報が将来の企業価値の創造もしくは毀損にどのように影響しうるかといった観点で非財務情報を捉え、ある時点である財務情報との関連性を持たせた開示が今後ますます重要になると考えられます。そのような環境下において公認会計士が監査上の対象とするのは、主に経理状況でありますが、投資家又は利害関係者のその企業の理解並びに企業価値の評価においては、財務情報と結合した非財務情報が重要であり、将来、会計士監査業務も非財務情報と財務情報の結合の適正性等も担保するようにして、開示のさらなる充実に貢献できる役割を担うことが望まれると思っています。
   
以 上