会計・監査業務に必要とされる実務作業力(作業力+実施意思)とは

2021年06月23日 更新

中村 匡利

筆者は1989年に会計士補(当時)登録後、現在まで継続して約32年にわたり会計監査・税務業務に携わっています。この間に関与した実務経験から、会計・監査業務において必要とされる実務作業力(作業力+実施意思)について、特に変わった視点はありませんが自戒を込めて考えてみたいと思います。なお、以下は筆者の経験等に基づく私見である点、財務諸表会計・監査に関する点ご了承お願いいたします。
 会計・監査業務は監査報告書に記載のとおり、「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、当該計算書類等に係る期間の財産及び損益の状況を、全ての重要な点において適正に表示」(会社法計算書類の場合)することを最終目的とします。このため、
1、 一般に公正妥当と認められる企業会計の基準を理解し、正確かつ網羅的に適用する作業力
2、 当該計算書類等に係る期間の財産及び損益の状況すなわち企業活動の経済的実態を正確かつ網羅的に把握する作業力
が必要とされます。さらに、会計・監査業務はその歴史的経緯から投資家等第三者に対する説明を使命とします。また、監査業務においては実施した監査手続が適切かつ十分であることを説明する責任があります。こうした点から、
3、 会計処理の根拠資料・会計基準を適用した検討資料を適切に作成する作業力
4、 実施した監査手続・入手した監査証拠の評価検討・監査意見形成根拠資料を適切かつ十分かつ適時に作成保存する作業力
5、 関係法令に要求される事項を適切かつ十分かつ適時に開示する書類を作成する作業力
も必要とされます。
 わかりやすく表現すれば、企業活動の経済的実態を正確かつ網羅的に把握し、該当する会計基準に当てはめ、会計処理・監査手続を実施し、開示書類を作成開示し、その過程を適切適時に作成・説明・保存する作業力が要求されていることとなります。
 これらのことは会社経理ご担当者等であれば社内外研修や実務等、会計士であれば試験勉強時や補修所等で、周知され今更いわれるまでもない当然のことです。しかしながら、日々の膨大な会計処理・監査業務、複雑化・進化する取引、会計基準の新設や改正、新型コロナウィルス感染症拡大等予期せぬ事態の発生等に忙殺され忘れがちです。
3月期決算・監査の主要部分が終了し、少し余裕がある一方で今後の会計・監査実務に大きな影響が予想される「収益認識に関する会計基準」原則適用開始年度を迎え、日々の会計・監査業務において何を目的としているのか視野を広げて再確認し、これらの作業力開発・維持のために何をすべきかの再確認は有益と考えられます。

1、 一般に公正妥当と認められる企業会計の基準を理解し、正確かつ網羅的に適用する作業力
① 研修、雑誌等実務対応解説の学習が重要と思います。基準は一読してもよくわかりませんが基準作成関与者の規定趣旨を含めた解説、実務対応解説に触れると印象に残り、理解が深まります。
② 網羅的な適用を誤ると会計処理漏れとなり、虚偽表示リスク高となります。適用すべき会計基準の網羅的な把握、会計処理されていない企業活動の把握はかなり難しいです。研修等で他社事例に触れておく、会計基準等を時折眺めてみる等で感度を磨くこと、社内主要業務担当者との幅広いコミュニケーションによる深度ある情報収集が必要と思われます。
③ 独断の解釈や特定目的を優先させる解釈の容認は虚偽表示リスク高となります。解釈が難しい事項等は複数の方との協議、他社開示事例の丹念な検索・比較、監査人であれば監査チームよりも会社と距離がある方の意見を聞いてみることが重要です。
2、 当該計算書類等に係る期間の財産及び損益の状況すなわち企業活動の経済的実態を正確かつ網羅的に把握する作業力
① 企業活動は日々変化し、経済状況に合わせ複雑化・進化していくため、非常に難しい課題です。また、作成される資料は担当者等により独特である場合も多く、必要な情報を適切かつ十分かつ適時に入手するためには複数資料の組合せ・加工を要することも多くあります。
② 関連する会計基準の理解⇔準拠する会計処理のイメージ⇔必要とされる情報の決定⇔情報入手を繰り返すこととなります。過年度の資料・検証手続が一般的ですが、状況変化を反映しなければならず、監査手続の深度は年々増しているため、機械的な過年度踏襲は避け、常に必要な対応を検討する意識が必須です。
③ 会計上の見積り・収益認識会計基準対応状況等、経理部門において把握された情報を超えた情報がないと適否を判断できない会計処理が増加しています。懐疑心を保持しての社内主要業務担当者との幅広いコミュニケーションによる深度ある情報収集が必要となります。
3、会計処理の根拠資料・会計基準を適用した検討資料を適切に作成する作業力
4、実施した監査手続・入手した監査証拠の評価検討・監査意見形成根拠資料を適切かつ十分かつ適時に作成保存する作業力
5、関係法令に要求される事項を適切かつ十分かつ適時に開示する書類を作成する作業力
① 上述のとおり、会計・監査業務は第三者への説明を使命とする業務です。説明のための資料、開示情報の作成・検討は適切かつ十分かつ適時に実施して初めて意義を達成できます。
② 現場主査時代に当時の業務執行社員より「監査は時間が来てゴングが鳴ったらおしまいだ、後戻りはできないのでそこまで必死にやるしかない」と言われました。誤謬の訂正に関する会計基準適用等でこの状況はさらに厳格化されています。

会計・監査業務は無論単独ではできません。また個々の得手・不得手分野も当然あります。経理部門・監査チームメンバー全員が会計・監査業務に必要とされる作業力を再考し、発揮すること、経理部門長や監査責任者は部員やメンバーが全体として適切かつ十分・適時に作業を完遂できるよう環境を整備することが重要と思います。
関連情報誌を見ますと、監査継続期間長期化を回避する傾向があり2021年6月株主総会では異常なほどの数の会計監査人の異動が報じられています。会計監査人の異動は会社にとっては新たな視点による監査への対応、監査人にとっては新規監査対象会社の業務の理解を要すこととなります。いずれにおいても経理部門・監査チームメンバー全員が必要とされる実務作業力を磨き、会計・監査業務を適切かつ十分・適時に完遂できる体制を整備しておかないと監査意見の訂正を含む過年度訂正という企業・監査人双方にとって最も回避したい状況が発生するリスクが高くなります。
わかっていても忙しく・・・という方は自身含め多いと思います。結局、やるべきとわかっていることを地道に丹念に、後悔している自身を見ないで済むよう手抜きせず、但し効率的に実施するためにリスク評価対応で工夫すべきか日々考えて手を動かすことしかないと思われます。

会計・監査業務はAI進化懸念下でも当面需要が強い業務であり責任が増す反面、社会的使命も年々増加し範囲も拡大している業務と思われます。心身を壊さない程度に業務に邁進する価値は十分あると思います。

以 上