2021年02月10日 更新
加藤 りさ
全ての人、全ての企業にとって想定外の連続であった2020年が明け、新しい年になったものの、新年早々の1都3県の緊急事態宣言の発出(執筆時は1都2府8県に拡大)により「想定外第2章」の幕開けを思い知らされる日々が続いています。
昨年は新聞や雑誌の見出しで「ウィズコロナ」「アフターコロナ」などの言葉が並べられるものの、そこで語られるのはいずれも、不確実な見通しに基づいた対策や当面の対処法ばかりといったものでした。
考えてみれば、新型コロナウィルスの感染拡大に限らず、世の中の事象は想定外で不確実なことばかりともいえます。
先日交代したトランプ氏が2017年第45代米国大統領に就任した後には、日経新聞では「不確実性の時代へ」と題した評論を掲載していました。
「不確実性の時代」とは経済学の分野で使用されますが、その淵源は1978年にジョン・K・ガルブレイスの著書のタイトルが「不確実性の時代」と翻訳され日本で出版されたことによると言われています。
現在は経済学の分野に限らず、広義に使われている感がある言葉ですが、会計の世界で「不確実性」と言ってまず思いつくのは「会計上の見積り」の定義の文言です。
「会計上の見積り」とは、資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出することをいう。(企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第 4 項(3))
「会計上の見積り」については、2021年3月期の連結財務諸表及び財務諸表より企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(以下、見積り開示基準)の適用が開始されます。
見積り開示基準公表の目的は、財務諸表に含まれる見積リスクを財務諸表利用者が理解できるような情報の開示を拡充することにあり、その適用にあたっては見積りリスクの所在や程度を示すような開示を行う必要があります。
それらを満たすための開示目的の内容として以下が挙げられています。
当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目(有利となる場合及び不利となる場合の双方が含まれる。)における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示することを目的とするとされています。(見積り開示基準第4項)
財務諸表利用者の理解に資する情報の例示として「当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法・・・算出に用いた主要な仮定、翌年度の財務諸表に与える影響」が挙げられています。
開示される金額は経営者により見積もられた「合理的な」金額であり、「合理的な」金額の見積りとしては「最善の見積り」アプローチがとられ、測定時点で入手可能な情報を最大限に利用し出来る限り合理的は修正を行います。見積り対象に関連する最多の情報を入手可能な立場にあるのは経営者であり、入手可能な情報の中からの取捨の判断および、情報の限界を補う仮定の設定も経営者により行われます。
あくまでも「見積り」である以上不確実性を免れることは出来ませんが、合理的な金額の算出に当たり「最善」を尽くしていれば事後的に測定値の修正があったとしても虚偽表示としては扱われないとされています。
会計上の見積りを取り巻く状況として、企業環境の不確実性が高まり、過去からの連続性から将来の予測値を単純には測定できない今、見積りの難易度の上昇への対応が、財務諸表作成者においても、私たち監査人にとっても大きな課題となっています。
不確実性という言葉が場合によってはリスクと同義で使用されることから、会計上の見積りに、ともするとネガティブなイメージを抱くこともありますが、基準でも述べられるようにリスクには有利不利の両面があります。
極端な楽観悲観は容認されませんが、現状での最善の見積りが適切に開示されるよう努める必要があります。
冒頭で、想定外の2020年と述べましたが、そもそも人間が想定出来る事柄には物理的時間的な限界があります。想定外未経験の中から、それぞれの立場で智恵を発揮し、それらの限界を乗り越えて、個人も企業も成長を果たしてきたともいえます。
企業活動も、個人の人生も、想定外の連続であっても、最善の見積りから、合理的な目標を立てその達成に邁進し、充実した一年となるよう願ってやみません。
以 上