コロナ禍およびコロナ後の会計上の見積りの考察

2020年08月12日 更新

乙藤 貴弘

今般の新型コロナウイルス感染症により、大きく経済活動が制限され、世界中の企業・人々が影響を受けていますが、このパンデミックの最中に行われた2020年3月期の決算では、会計上の見積りを行うに際し、全く収束の時期も見通せず、さらに人々の生活が新型コロナウイルスによりどのような影響を受け、どのような需要の変化が起こるかが見通せない中、基本的には一定の時期に収束し、従前の需要があるものとして見積りを行うことしかできなかったと思われます。
 各社の有価証券報告書での記載を見てみますと、特に影響が大きいと思われる同じ外食産業でも収束時期の仮定が様々であり(いつが正しいかは誰も知る由もありませんが)、会計上の見積りの金額に大きく影響したと思われます。いずれにしても、以下に記載したASBJによる考え方に合致するものであれば、十分な検討が必要ではありますが、会計監査上は問題にならないと思われます。
 しかし、今後、以下のような問題や検討すべき事項等が生じる可能性があると考えています。

・新型コロナウイルスにより生活様式が変化したことによる会社の製品商品の需要の変動の把握
・新しい需要に応じた計画の見直しの必要性の検討
・各社の収束時期の仮定の差異により、同業他社との比較可能性の低下
・収束時期の仮定が実態と乖離したことが判別した際に損失を計上する可能性
・各社の新型コロナウイルス収束後の需要の回復度合いの仮定が実態と乖離したことが判別した際に損失を計上する可能性
・上記実態との乖離が判明した時に影響がある会計上の見積りの項目(棚卸資産の評価減、固定資産の減損、有価証券(子会社株式等)の減損、繰延税金資産の回収可能性、貸倒引当金など)の検討
・上記実態がいつ判別し、いつの決算に織り込むべきかの検討
いずれにしても、適時適切に会計上の見積りを行い、必要に応じて会計処理が必要になります。

一日も早く新型コロナウイルスが収束し、見積りの仮定より良い結果となり、みなさまに以前の日常が戻ることを願っております。

(参考:企業会計基準委員会(ASBJ)議事概要「会計上の 見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」(2020年4月10日、5月12日追記)より)
会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方
財務諸表を作成する上では、固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性など、様々な会計上の見積りを行うことが必要となる。会計基準では、会計上の見積りを「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」と定義している。
ここで、新型コロナウイルス感染症の広がりは、経済、企業活動に広範な影響を与える事象であり、また、今後の広がり方や収束時期等を予測することは困難であるため、会計上の見積りを行う上で、特に将来キャッシュ・フローの予測を行うことが極めて困難な状況となっているものと考えられる。このような状況において、会計上の見積りを行う上では、以下の点に留意する必要があると考えられる。
(1) 「財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出する」上では、新型コロナウイルス感染症の影響のように不確実性が高い事象についても、一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要があるものと考えられる。
(2) 一定の仮定を置くにあたっては、外部の情報源に基づく客観性のある情報を用いることができる場合には、これを可能な限り用いることが望ましい。ただし、新型コロナウイルス感染症の影響については、会計上の見積りの参考となる前例がなく、今後の広がり方や収束時期等について統一的な見解がないため、外部の情報源に基づく客観性のある情報が入手できないことが多いと考えられる。この場合、新型コロナウイルス感染症の影響については、今後の広がり方や収束時期等も含め、企業自ら一定の仮定を置くことになる。
(3) 企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積りを行った結果として見積もられた金額については、事後的な結果との間に乖離が生じたとしても、「誤謬」にはあたらないものと考えられる。
(4) 最善の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響に関する一定の仮定は、企業間で異なることになることも想定され、同一条件下の見積りについて、見積もられる金額が異なることもあると考えられる。このような状況における会計上の見積りについては、どのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったかについて、財務諸表の利用者が理解できるような情報を具体的に開示する必要があると考えられ、重要性がある場合は、追加情報としての開示が求められるものと考えられる。
 上記の (4) の 「重要性がある場合」 については、 当年度に会計上の見積りを行った結果、当年度の財務諸表の金額に対する影響の重要性が乏しい場合であっても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に関する追加情報の開示を行うことが財務諸表の利用者に有用な情報を与えることになると思われ、開示を行うことが強く望まれる。

以 上