新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項ついて

2020年06月17日 更新

松渕 敏朗

日本公認会計士協会は新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項を順次公表しています(留意事項 その5までを記載)。その他に金融庁、国税庁、東京証券取引所他も新型コロナウイルス感染症に関連する事項を順次公表しています。監査上の留意事項は監査人の行動指針となるものであります。新型コロナウイルスの影響を受ける企業においては、会計処理において参考とすべき記載もあるので時系列で簡単に項目を記載しておきますので、必要に応じて本文の参照をして頂きたいと思います。
また、留意事項の中で「会計上の見積り」及び「操業、営業停止中の固定費等の会計処理」に関しては、別途項目を設けて概要を記載しております。

Ⅰ.新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項の公表内容
1.2020年3月18日 新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その1)
新型コロナウイルス感染症に関連して、監査人が留意すべきと思われる事項を列挙しています。項目は、以下のとおりであり、詳細は、本文を参照されたい。
(1)監査手続に係る留意事項(実地棚卸の立会、残高確認、監査証拠の信頼性、グループ監査の留意事項)
(2)既に決算日を迎えた企業の監査対応
(3)内部統制監査
(4)監査スケジュールの延長等

2.2020年4月10日(5月12日更新) 新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)
主として、不確実性の高い環境下における監査上の留意事項を記載しています。概要は、以下のとおりであり、詳細は、本文を参照されたい。
(1)財務諸表の利用者等の意思決定に資するという公共の利益を勘案し、不確実性の高い環境下においても、それを要因として会計上の見積りの監査が困難であることを理由に監査意見を表明できないという判断は、慎重になされるべきである。
(2)企業会計基準委員会の議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」(2020年4月10日)及び議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の考え方(追補)」(2020年5月11日)に留意する。
(3)会計上の見積りの合理性の判断を行う際には、企業が、見積りに影響を及ぼす入手可能な情報をもとに、悲観的でもなく、楽観的でもない仮定に基づく見積りを行っていることを確かめる。監査人が、経営者の過度に楽観的な会計上の見積りを許容することや、過度に悲観的な予測を行い、経営者の行った会計上の見積りを重要な虚偽表示と判断することは適切ではない。
(4)会計上の見積りの不確実性が財務諸表の利用者等の判断に重要な影響を及ぼす場合には、企業による追加情報等の開示や、監査報告書の強調事項を用いて、明確で、信頼でき、透明性のある有用な情報を提供することを検討する。
なお、本留意事項の項目は、以下で構成されている。詳細は、本文を参照されたい。
①不確実性の高い環境下における監査の基本的な考え方
②会計上の見積りの監査(後述)
③継続企業の前提

3.2020年4月15日(4月20日更新) 新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その3)
金融庁から「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について」が 2020年4月14日に公表され、また、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会から共同声明「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」が同年4月15日に公表されたことを踏まえ、これに関する留意事項を取りまとめています。項目は、以下のとおりであり、詳細は、本文を参照されたい。
(1)有価証券報告書等の提出期限の延長について
(2)会社法計算関係書類の監査について

4.2020年4月22日 新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その4)
政府や地方自治体の要請等により営業を停止した場合の固定費等の会計処理並びに銀行等金融機関の自己査定及び償却・引当に関する留意事項を取りまとめています。項目は、以下のとおりであり、詳細は、本文を参照されたい。
(1)操業、営業停止中の固定費等の会計処理(後述)
(2)銀行等金融機関の自己査定及び償却・引当について

5.2020年5月8日(5月15日更新) 新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その5)
会社法の監査意見の形成にあたり、監査意見及び経営者確認書に関する留意点を取りまとめています。項目は、以下のとおりであり、詳細は、本文を参照されたい。
(1)除外事項付意見(監査範囲の制約)に関する留意点
(2)経営者確認書に関する留意事項

Ⅱ.会計上の見積り
財務諸表を作成する上では、固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性など、様々な会計上の見積りを行うことが必要となります。企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」では、会計上の見積りを「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出することをいう」と定義しています。
ここで、「財務諸表作成時に入手可能な情報」に関して、企業会計基準第24号には特段の定めはないものの、2020年4月10日に、企業会計基準委員会から、議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」が公表されており、その要旨は以下のとおりです。
(1) 新型コロナウイルス感染症の影響のように不確実性が高い事象についても、一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要がある。
(2) 一定の仮定を置くにあたっては、外部の情報源に基づく客観性のある情報を用いることが望ましい。ただし、新型コロナウイルス感染症の影響については、外部の情報源に基づく客観性のある情報が入手できないことが多いと考えられることから、今後の広がり方や収束時期等も含め、企業自ら一定の仮定を置くことになる。
(3) 企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積りを行った結果として見積もられた金額については、事後的な結果との間に乖離が生じたとしても、「誤謬」にはあたらない。
(4) 最善の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響に関する一定の仮定は、企業間で異なることになることも想定され、同一条件下の見積りについて、見積もられる金額が異なることも考えられる。このような状況における会計上の見積りについては、どのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったかについて、財務諸表の利用者が理解できるような情報を具体的に開示する必要があると考えられ、重要性がある場合は、追加情報としての開示が求められるものと考えられる。
また、2020年5月11日に企業会計基準委員会から公表された議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方(追補)」により、以下の考え方が追加で示されている。
(5)上記の(4)の「重要性がある場合」については、当年度に会計上の見積りを行った結果、当年度の財務諸表の金額に対する影響の重要性が乏しい場合であっても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に関する追加情報の開示を行うことが財務諸表の利用者に有用な情報を与えることになると思われ、開示を行うことが強く望まれる。

Ⅲ.操業、営業停止中の固定費等の会計処理
政府や地方自治体の要請等により営業を停止した場合の固定費等の会計処理について、以下の考え方が公表されています。その要旨は以下のとおりです。
1.被監査企業が店舗の営業を停止又はイベントの開催を中止したときに、当該営業停止期間中に発生した固定費や、当該イベントの開催の準備及び中止のために直接要した費用は、臨時性があると判断される場合が多いと考えられる。したがって、その場合は、監査上、損益計算書の特別損失の要件を満たし得るものとして取り扱うことができると考えられる。
2.被監査企業の工場が操業を停止又は縮小したときの異常な操業度の低下による原価への影響についても、臨時性があると判断される場合が多いと考えられる。したがって、その場合も、監査上、損益計算書の特別損失の要件を満たし得るものとして取り扱うことができると考えられる。
なお、いずれの場合も、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のための政府や地方自治体による要請や声明等に関連せず、経常的な経営活動に伴う業績不振等による損失が特別損失に計上されることがないように、監査上、留意が必要である、とされています。

以 上