2020年02月03日 更新
板垣 太榮三
閣議決定された令和2年度税制改正大綱(以下「大綱」)につきましては当法人2019年12月23日付け会計トピックス( http://www.seiyo.or.jp/topix/2401/ )でお知らせしたところです。
本会計コラムでは「大綱」の法人税制関連で増減税額(「大綱」最後尾の参考1)として影響の大きい以下の4つの改正事項につきましてご紹介します。なおこれらの改正は、「令和2年4月1日以後に開始する事業年度から適用する。」としています。
<減税事項>
1. オープンイノベーションを促進するための税制措置の創設
2. 5G導入促進税制の創設
<増税事項>
3. 賃上げ及び投資の促進に係る税制の見直し
4. 交際費等の損金算入制度の見直し
なお、連結納税制度の見直しにつきましては大きな見直しではありますが、増減税の影響額が少なく(初年度に影響額は無く、平年度に10億円の増税見込み)、本コラムでは省略します。
1. オープンイノベーションを促進するための税制措置の創設(初年度130億円、平年度150億円の減税見込)
事業会社が一定のベンチャー企業の株式を取得し、事業年度末まで保有した場合、その株式の取得価額の25%以下の金額を損金算入できるというものです。この税制は鳴り物入りで登場したもので自民党の税制大綱で「極めて異例の措置」と謳われた措置ですが、「大綱」に下記のように記されているように実際に利用するには比較的厳しい条件が設けられているように見えます。
「大綱」P44~45によると、青色申告書を提出する法人で特定事業活動を行うもの(以下「対象法人」という。)が、令和2年4月1日から令和4年3月 31 日までの間に特定株式を取得し、かつ、これをその取得した日を含む事業年度末まで有している場合において、その特定株式の取得価額の 25%以下の金額を特別勘定の金額として経理したときは、その事業年度の所得の金額を上限に、その経理した金額の合計額を損金算入できることとするとあります。
この特別勘定の金額は、特定株式の譲渡その他の取崩し事由に該当することとなった場合には、その事由に応じた金額を取り崩して、益金算入する。ただし、その特定株式の取得から5年を経過した場合は、この限りでない。
(注1)上記の「特定事業活動を行うもの」とは、自らの経営資源以外の経営資源を活用し、高い生産性が見込まれる事業を行うこと又は新たな事業の開拓を行うことを目指す株式会社等をいう。
(注2)上記の「特定株式」とは、産業競争力強化法の新事業開拓事業者のうち同法の特定事業活動に資する事業を行う内国法人(既に事業を開始しているもので、設立後 10 年未満のものに限る。)又はこれに類する外国法人(以下「特別新事業開拓事業者」という。)の株式のうち、次の要件を満たすことにつき経済産業大臣の証明があるものをいう。
① 対象法人が取得するもの又はその対象法人が出資額割合 50%超の唯一の有限責任組合員である投資事業有限責任組合の組合財産等となるものであること。
② 資本金の増加に伴う払込みにより交付されるものであること。
③ その払込金額が1億円以上(中小企業者にあっては 1,000 万円以上とし、外国法人への払込みにあっては5億円以上とする。)であること。
ただし、対象となる払込みに上限を設ける。
④ 対象法人が特別新事業開拓事業者の株式の取得等をする一定の事業活動を行う場合であって、その特別新事業開拓事業者の経営資源が、その一定の事業活動における高い生産性が見込まれる事業を行うこと又は新たな事業の開拓を行うことに資するものであることその他の基準を満たすこと。
(注3)次に掲げる場合は、特別勘定の取崩し事由に該当する。
① 特定株式につき経済産業大臣の証明が取り消された場合
② 特定株式の全部又は一部を有しなくなった場合
③ 特定株式につき配当を受けた場合
④ 特定株式の帳簿価額を減額した場合
⑤ 特定株式を組合財産とする投資事業有限責任組合等の出資額割合の変更があった場合
⑥ 特定株式に係る特別新事業開拓事業者が解散した場合
⑦ 対象法人が解散した場合
⑧ 特別勘定の金額を任意に取り崩した場合
2. 5G導入促進税制の創設(初年度100億円、平年度130億円の減税見込)
5G情報通信インフラの整備を促す減税策です。安全性の高い事業者を政府が認定し、5G基地局などへの投資額の15%を法人税から税額控除または投資額の30%を特別償却できるとするものです。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天などの携帯通信大手のほか、工場などで独自の5G通信網を築く事業者が対象なだけにこの税制も利用が極めて限定的であり、この恩典を得ることのできる事業者は極めて少数だと思われますが、「大綱」での記載は下記のとおりです。
「大綱」P46によると特定高度情報通信等システムの普及の促進に関する法律(仮称)の制定を前提に、青色申告書を提出する法人で一定のシステム導入を行う同法の認定特定高度情報通信等システム導入事業者(仮称)に該当するものが、同法の施行の日から令和4年3月 31 日までの間に、特定高度情報通信用認定等設備の取得等をして、国内にある事業の用に供した場合その他の場合には、当該法人は、その取得価額につき、30%の特別償却と 15%の税額控除との選択適用ができることとするとあります。ただし、税額控除における控除税額は、当期の法人税額の20%を上限とする(所得税についても同様とする。)。
(注1)上記の「一定のシステム導入」とは、特定高度情報通信等システムの普及の促進に関する法律の認定導入計画(仮称)に従って実施される同法の特定高度情報通信等システム(仮称)の導入で、その早期の普及を促すものであってその供給の安定性の確保に特に資するものとして基準に適合することについて主務大臣の確認を受けたものをいう。
(注2)上記の「特定高度情報通信用認定等設備」とは、その法人の認定導入計画に記載された機械その他の減価償却資産で、一定のシステム導入の用に供するための一定のものをいう
3. 賃上げ及び投資の促進に係る税制の見直し(初年度70億円、平年度90億円の増税見込)
この税制に関して見直しの対象となるのは➀賃上げ・投資促進税制と➁研究開発税制の二つになります。
➀賃上げ・投資促進税制の見直しでは、賃上げ等を行った資本金1億円超等の大企業に対して、給与等支給額の増加額の一部を法人税から税額控除するもので従来からあるものですが、その適用要件が厳しくなります。具体的には①設備投資要件かつ➁賃金要件を充足することが要件になりますが、このうち①設備投資要件で従来の「国内設備投資額≧当期償却費総額の90%」の要件式について改正後では5ポイントアップし90%が95%になります(➁賃金要件は変わりません)。
➁研究開発税制の見直しでは、同税制の適用除外要件となるもののうち従来「国内設備投資額>当期償却費総額の10%」の要件式について改正後では20ポイントアップし10%が30%になります。またこれには上記2の5G導入促進税制で対象となるものの特別償却又は税額控除制度(仮称)の税額控除が加えられます。
今回の措置はこれまでに賃上げや投資の促進を図るために実施された措置の強化を図るものと受け止められます。積み重なる企業の莫大な内部留保、それに対して足りない賃上げと投資に自民党・政府として一歩踏み込んで設備投資の拡大を求めた処置です。「大綱」では次のように記されています。
「大綱」P45によると(2)大企業につき研究開発税制その他生産性の向上に関連する税額控除の規定を適用できないこととする措置について、次の見直しを行う(所得税についても同様とする。)とあります。
① その大企業の国内設備投資額が当期償却費総額の 10%を超えることとの要件について、当期償却費総額の30%を超えることとする。
② 本措置の対象に、特定高度情報通信用認定等設備を取得した場合の特別償却又は税額控除制度(仮称)の税額控除を加える。
(3) 給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の税額控除制度における国内設備投資額が当期償却費総額の 90%以上であることとの要件について、当期償却費総額の 95%以上であることとする(所得税についても同様とする。)。
4. 交際費等の損金算入制度の見直し(初年度110億円、平年度140億円の増税見込)
「大綱」では、資本金100億円超の大法人は接待飲食費に係る損金算入の特例(50%損金算入)が認められなくなります。ただし当該大法人においても参加者一人当たり5千円以下の接待飲食費は全額損金算入されることは従前どおりです。それ以外の法人の交際費課税については従前通り変わりません。
「大綱」P45~46 によると(4)交際費等の損金不算入制度について、その適用期限を2年延長するとともに、接待飲食費に係る損金算入の特例の対象法人からその資本金の額等が 100 億円を超える法人を除外した上その適用期限を2年延長するとあります。
以上、法人課税の主要な増減税項目4つをご紹介しましたが、これらの増減税(見込額)を含めた法人課税の改正項目を通算すると、平年度は0億円ですが、初年度は10億円の減収見込額とになり、全体では今回の法人課税に関する税制改正は小ぶりなものになっているとの印象を受けます。
以 上