KAMの導入について思うこと

2019年10月10日 更新

山本 幹夫

会計、監査に関わる皆さんにとって昨今における最大の会計トピックはやはり収益認識会計基準ということだと思います。しかし、特に監査人と監査役等にとってそれに次ぐあるいは匹敵するくらい大きなインパクトのあるトピックとして監査基準の改訂、その中でも特に監査報告書における「監査上の主要な検討事項」(いわゆるKAM~Key Audit Matters)の記載を求める改訂が挙げられると思います。この改訂はこれまで決算書の後ろに1~2ページでただくっついているだけ(もちろん冗談ですが)だった監査報告書が、投資家にとっての重要な「読み物」となるかも知れないという、たぶん半世紀に1度くらいの大改正になると思います。
KAMの導入はイギリスでは2012年10月1日以降開始事業年度から、EUでも2016年6月から関連規則の適用が開始され、アメリカでもいよいよ2019年6月30日以降終了する事業年度の監査から段階的に適用が開始されるそうです(ただし、アメリカではKAMではなくCAM~Critical Audit Matters)。これらにかなり遅れて我が国では上場会社を対象に2020年3月期から早期適用、2021年3月期から原則適用されることが決まっています。東証一部上場企業には早期適用が「期待」されているため既に準備にかかっている会社もあると思いますが、その他の会社はまだ先のこととして「早期適用の開示例が出揃ってから」準備にかかろうというスケジュール感のところも多いのではないでしょうか。

KAMの導入によって監査報告書には「監査上の主要な検討事項」の「内容」、「決定理由」、「監査上の対応」を“対象となる企業の事業内容及び事業環境に紐づいた固有の要因を含めて”記載することが求められます。これらはこれまで監査人の監査調書や監査役等とのコミュニケーション上でのみ記載、討議されていた監査上のリスク項目とその対応を、さらに絞りはかけるものの社会全体に公表するわけですから監査人にとってはかなりのプレッシャーです。  
記載内容によっては利用者にとってとても有益な情報提供になるとともに監査人と監査役等との間のコミュニケーションが一層密になるという効果も期待できます。大きな期待がある反面、個人的には特に経営者不正等を疑がわしめるような重要な検討項目があった時、それをどの程度KAMに反映できるものだろうか?という心配もあります。「監査上の対応」まで記載する以上、読む人が十分納得できるような説得力のある対応でないと、なかなかKAMには書けません。このプレッシャーが監査の品質向上につながるという狙いがあるのは当然でしょうが、もし「監査上の対応」が容易な項目だけKAMに記載するような風潮が出てくるようであれば、これだけ大騒ぎしたのに結局あまり意味のない結果になりかねません。

以 上