2018年06月06日 更新
大塚 健一
平成30年3月14日に企業会計基準委員会から表題記載の実務対応報告が公表されました。本実務対応報告は、仮想通貨の会計処理及び開示に関する当面の取扱いとして、必要最小限の項目について、実務上の取扱いを明らかにすることを目的としております。
本実務対応報告では、まず「Ⅰ.仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理」と「II.仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨の会計処理」の2つに当事者を分けて、それぞれの会計処理を説明した後に「III.開示」についての取扱いが記載される構成となっています。
それでは最初に、多くの読者が興味を持つであろう「Ⅰ.仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理」から内容を見ていきたいと思います。
●「Ⅰ.仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理」の要約
<保有する仮想通貨について、活発な市場が存在する場合>
①:市場価格に基づく価額をもって当該仮想通貨の貸借対照表価額とする。
②:①の結果生じた帳簿価額との差額は当期の損益として処理する。
<保有する仮想通貨について、活発な市場が存在しない場合>
③:取得原価をもって貸借対照表価額とする。
④:期末における処分見込価額が取得原価を下回る場合には、当該処分見込価額をもって貸借対照表価額とし、取得原価と当該処分見込価額との差額は当期の損失として処理する。
⑤:前期以前において、前項に基づいて仮想通貨の取得原価と処分見込価額との差額を損失として処理した場合、当該損失処理額について、当期に戻入れを行わない。
<活発な市場の判断規準>
⑥:保有する仮想通貨について、継続的に価格情報が提供される程度に仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所において十分な数量及び頻度で取引が行われているか。
<仮想通貨の売却損益の認識時点>
⑦:当該仮想通貨の売買の合意が成立した時点において認識する。
如何でしょうか。
想像するに本コラムの読者の法人様は、まだ仮想通貨を利用していないものの、将来的にはひょっとしたら利用する可能性のある、いわば“潜在的な仮想通貨利用者”が中心と思われます。そのような法人様が活発な市場が存在する仮想通貨を保有した場合には、期末に時価評価し、売買の合意時に売却損益を認識するとのことですので、いずれもP/Lにヒットさせる会計処理が要求されています。
法人様によっては、今後の仮想通貨の利用を考えるうえでもインパクトのあるルールかもしれませんね。
それでは次に「II.仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨の会計処理」の内容を見ていきたいと思います。
●「II.仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨の会計処理」の要約
①:仮想通貨交換業者は、預託者との預託の合意に基づいて仮想通貨を預かった時に、預かった仮想通貨を資産として認識する。当該資産の当初認識時の帳簿価額は、預かった時の時価により算定する。
②:①と同時に、預託者に対する返還義務を負債として認識する。当該負債の当初認識時の帳簿価額は、預かった仮想通貨に係る資産の帳簿価額と同額とする。
③:預託者から預かった仮想通貨に係る資産の期末の帳簿価額については、仮想通貨交換業者が保有する同一種類の仮想通貨から簿価分離したうえで、活発な市場が存在する仮想通貨と活発な市場が存在しない仮想通貨の分類に応じて、「Ⅰ.仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理」と同様の方法により評価を行う。
④:預託者への返還義務として計上した負債の期末の貸借対照表価額を、対応する預かった仮想通貨に係る資産の期末の貸借対照表価額と同額とし、預託者から預かった仮想通貨に係る資産及び負債の期末評価からは損益を計上しない。
仮想通貨交換業者側の会計処理については、該当する読者はあまりいらっしゃらないかと思われますが、要約すると上記のとおりとなります。
次に「III.開示」の内容を見ていきたいと思います。
●「Ⅲ.開示」の要約
<表示>
①:仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が仮想通貨の売却取引を行う場合、当該仮想通貨の売却取引に係る売却収入から売却原価を控除して算定した純額を損益計算書に表示する。
<注記>
②:仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨、及び仮想通貨交換業者が預託者から預かっている仮想通貨について、次の事項を注記する。
(1) 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨の貸借対照表価額の合計額
(2) 仮想通貨交換業者が預託者から預かっている仮想通貨の貸借対照表価額の合計額
(3) 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨について、活発な市場が存在する仮想通貨と活発な市場が存在しない仮想通貨の別に、仮想通貨の種類ごとの保有数量及び貸借対照表価額。ただし、貸借対照表価額が僅少な仮想通貨については、貸借対照表価額を集約して記載することができる。
③:②に関わらず、仮想通貨の貸借対照表価額の合計額を合算した額が資産総額に比して重要でない場合、注記を省略することができる。
最後に本実務対応報告の適用時期ですが、平成30年4月1日以後開始する事業年度の期首からの適用とされています。ただし、本実務対応報告の公表日以後終了する事業年度及び四半期会計期間から適用することも可能とされています。
以 上