2019年5月の10連休と会計監査業務
中村 匡利
皆様ご承知のとおり、昨年末新天皇即位と改元に際して5月1日を祝日とする法律が成立し、2019年に限り、4月27日から5月6日まで10連休となることが決定しました。旅行業界等は大歓迎のようですが、人手不足が深刻なサービス業や医療機関等は対応に苦慮、開場している外国市場の影響を受ける金融市場の再開直後の相場混乱懸念や時給労働の方は収入減等批判や不安の声もあるようです。我々会計監査業務に携わる者からは、「どうせもともと休めない」という冷ややかな意見と「会社が監査期間中休日増になるので監査対応にかなり不安」という強い批判の声が一般的と思われます。
日本の会社は3月期決算が圧倒的多数で民間Webサイト情報では2018年3月末時点で全上場会社の65.8%が3月期とのことです。2018年6月7日付の日本経済新聞の報道によりますと海外で主流の12月期への変更が相次ぎ、過去5年で3割増とのことですが全上場会社で11.6%にとどまっているようです。上場会社以外でも監査対象となる金融機関や公益法人等は許認可の規制により全て決算期は3月末とされています。
こうした状況により、日本での会計監査業務は被監査会社がある程度の決算原案を会計監査人に提出する4月20日頃から多忙を極めます。監査手続実施可能期限となる監査報告書提出日は株主総会開催日を6月末とする場合6月初旬とすることが会社法規定では可能です。しかしながら実務上は45日以内が適当であるが30日以内がより望ましいとする東証の決算短信開示方針、開示した決算短信と監査済財務情報との相違が望ましくないという被監査会社の要望により短信開示前の監査意見を要望されることもあります。この場合、監査日数は実質3週間弱となり、この間で期末手続から計算書類の開示検証、審査まで実施する必要があり、しかも複数会社を並行的に実施する必要があります。加えて、3の倍数の決算期会社の四半期レビューも同時に実施しなければなりません。
この状況は監査時間が不十分となり、監査リスクを高める要因になることから、数年前より金融庁や東証、日本公認会計士協会は以下の対策を講じていますが私見では被監査会社や投資家の意識にはあまり変化がなく十分な効果は得られていないと感じています。
決算短信は監査対象外であることの明記
ディスクロージャーワーキング・グループ提言による制度開示の整理・共通化・合理化
2017年12月プレスリリース「十分な期末監査期間の確保について」及び会長声明「十分な期末監査期間の確保について」公表
2019年1月「「2016年から2018年における3月決算上場会社の会社法監査報告書日付の分布状況について」の公表及び2019年3月期決算に向けた対応に当たって」公表
私見では、上場会社の決算期を金融庁や東証が割当て、年間に分散すれば監査リスクを低減できると思いますが、実現可能性はまずありません。
ただでさえ、3日-5日程度の2回の飛び石連休を含む3週間弱の厳しいスケジュールのところ、2019年3月期監査は10連休を含む異常な事態となってしまいます。はたして、東証・金融庁や日本公認会計士協会はこれで良しとしているのでしょうか???
結局のところ、2019年3月期決算(3の倍数決算期の四半期レビューを含む)は例年にも増して以下の対応を十分に講じなければならないということとなります。
監査スケジュール、監査作業順序の効率的な組立て
会社業務日作業・休日監査事務所作業を的確に把握し、会社業務日に資料収集・ヒアリングに徹底し、監査事務所作業日に調書作成を行う等、会社業務日を最大限効率化
事前に実施できる監査作業を可能な限り前倒しで実施しておく
会社の協力を得てある程度休日も業務を実施、監査対応して頂く
監査業務は売上・原価関連不正リスクの高まりにより監査手続がBSアプローチからPLアプロ―チにシフトしてから相当期間経過しています。さらに会計上の見積り項目に対する監査が非常に重視されています。いずれも期末のみではなく期中全般を通じての手続・時間をかけた状況把握と被監査会社との対話が監査手続には必要かつ有効です。期末監査スケジュールが非常に厳しくなる2019年3月期はこうした監査アプローチ・スケジュール組立見直しの好機なのかもしれません。すでに3月期は第3四半期まで終了していますが、まだまだ十分時間があります。被監査会社ご担当者様に十分ご理解、ご協力いただくとともに、効果的効率的な期中監査手続を万全に実施することで期末監査を滞りなく迎え、適切な監査意見を表明したいものです。
被監査会社ご担当各位、ご協力下さいますよう何卒よろしくお願いいたします。
以 上