平成30年度税制改正大綱について

2018年01月10日 更新

                                                                   木頭 孝男
 
平成29年12月14日、自由民主党・公明党から平成30年度の税制改正大綱が発表されました。今回は大綱発表前から、新聞等では給与所得控除の減額についての報道等がなされ、話題となっておりました。今回の大綱の内容を見て、個人に対する所得課税が一層強まっているという印象を強く受けました。
 以下、主要であると思われる項目について、ご紹介いたします。

Ⅰ個人所得課税

 個人所得課税については、「働き方改革」を後押しする観点より、特定の収入のみに適用される給与所得控除や公的年金控除から、どのような所得にでも適用される基礎控除に、負担調整の比重を移していくという基本的な考え方の下、所得控除について下記のとおり見直しが行われています。
 
・ 給与所得控除について、控除額を一律10万円引下げ、給与所得控除の上限額が適用される給与等の収入金額を850万円、その上限額を195万円に引き下げる。

・ 特定支出控除について、その範囲に職務の遂行に必要な旅費等で通常必要と認められるものを加える。また、すでに範囲に含まれている単身赴任者の帰宅旅費について、1月に4往復を超えた旅行に係る帰宅旅費を対象外とする制限を撤廃するとともに、帰宅のために通常要する自動車を使用することにより支出する燃料費及び有料道路の料金の額を加える。

・ 公的年金等控除額を一律10万円引き下げ、公的年金等の収入金額が1000万円を超える場合の控除額については、195万5千円の上限を設ける。

・ 公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が1000万円を超える場合の控除額を、上記の見直しの控除額からさらに10万円~20万円引き下げる。

・ 基礎控除額を一律10万円引上げる。

ただし、所得再分配機能の回復の観点から高所得者については下記の通り見直しが図られています。

・ 合計所得金額が2400万円を超える個人についてはその合計所得金額に応じて基礎控除額が逓減し、合計所得金額が2500万円を超える個人については基礎控除の適用はできないこととする。

上記の改正は、平成32年分以後の所得税及び平成33年度分以後の個人住民税について適用されます。

Ⅱ資産課税

 中小企業経営者の年齢分布のピークが60代半ばとなり、生産性の向上のために中小企業の円滑な世代交代は喫緊の課題であるという認識の下、事業承継税制について10年間の特例措置として、下記を内容とする事業承継税制の特例が創設されました。
 
・ 特例後継者(仮称)が、特例認定承継会社(仮称)の代表権を有していた者から、贈与又は相続若しくは遺贈(以下「贈与等」)により当該特例認定承継会社の非上場株式を取得した場合には、その取得した全ての非上場株式に係る課税価格に対応する贈与税又は相続税の全額について、その特例後継者の死亡の日等までその納税を猶予する。
 
 この他、上記の特例に関して、従来の事業承継税制と比べて、雇用確保要件は弾力化され、2名又は3名の後継者に対する贈与等に対象を拡大し、経営環境の変化に対応した減免制度が創設されています。この改正は、平成30年1月1日から平成39年12月31日までの間に贈与等により取得する財産に係る贈与税又は相続税について適用されます。

 一方で小規模宅地等の特例の本来の趣旨を逸脱した悪用を防止する観点から、下記の通り贈与税・相続税の課税の適正化が図られています。

・ 持ち家に居住していない者に係る特定居住用宅地等の特例の対象者の範囲から、①相続開始前3年以内に、その者の3親等以内の親族等の所有する国内にある家屋に居住したことがある者、②相続開始時において居住の用に供していた家屋を過去に所有していたことがある者は、除外する。
・ 貸付事業用宅地等の範囲から、相続開始前3年以内に貸付事業の用に供された宅地等を除外する。

上記の改正は、平成30年4月1日以後に相続又は遺贈により取得する財産に係る相続税について適用します。ただし、貸付事業用宅地等については同日前から貸付事業の用に供されている宅地等については適用しません。

また、高度外国人材等の受入れと長期間の滞在を更に促進する観点から、一時的に国外に住所を移した後に贈与を行う場合を除き、外国人が出国後に行った相続・贈与については原則として国外財産を相続税等の課税対象とはしないこととするように、現行制度の見直しを行っています。これについても平成30年4月1日以後の贈与等により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用します。

Ⅲ法人課税

「生産性革命」の実現に向けて、企業が自己の収益を生産性向上のための設備投資や人材投資に振り向け、持続的な賃上げが可能となる環境を作り出すために、下記を内容とする所得拡大促進税制の改組及び情報連携投資等の促進に係る税制の創設が行われます。

・ 雇用者給与等支給額が増加した場合の税額控除を改組し、青色申告書を提出する法人が、平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間に開始する各事業年度に、国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、次の要件を満たすときは、給与等支給増加額の15%の税額控除(一定の場合20%)ができる制度とする。
① 平均給与等支給額から比較平均給与等支給額を控除した金額の比較平均給与等支給額に対する割合が3%以上であること。
② 国内設備投資額が減価償却費の総額の90%以上であること。

・ 青色申告書を提出する法人で「生産性向上の実現のための臨時措置法(仮称)」の革新的産業データ活用計画(仮称)の認定を受けたものが、同法施行の日から平成33年3月31日までの間に、その革新的産業データ活用計画に従ってソフトウェアを新設し、又は増設した場合で、これらの取得価額の合計額が5000万円以上の場合において、情報連携利活用設備の取得等をして、その事業の用に供したときは、その取得価額の30%の特別償却と5%(一定の場合3%)の税額控除との選択適用ができることとする。ただし、税額控除における控除税額は当期の法人税額の20%(一定の場合15%)を上限とする。

上記のうち所得拡大促進税制の改組については、中小企業向けにも行われます。一方で、所得が増加しているにも関わらず、賃上げや設備投資をほとんど行っていない大企業(平均給与等支給額が比較平均給与等支給額を超えず、かつ、国内設備投資額も減価償却費総額の10%を超えない)については、研究開発税制等、生産性の向上に関連する税額控除の適用ができなくなります(平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間に開始する各事業年度)。
 また、さらなる生産性向上に寄与するため、企業外の経営資源・技術を取り込む事業の再編・統合を後押しすべく、平成33年3月31日までに特別事業再編計画(仮称)の認定を受けた事業者が行った特別事業再編(仮称)(自社の株式を対価とする公開買い付けなど任意の株式の交換)に応じた株主に対する譲渡損益の課税を繰り延べる特例制度が創設されます。その他、事業再編の円滑な実施のため、多段階型再編等多様な手法を可能とする組織再編税制の適格要件の見直しが行われます。

 その他、収益認識に関する会計基準が制定されたことに伴い、下記の措置が講じられることになります。
・ 資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供(以下「資産の販売」という。)に係る収益の額として所得の金額の計算上益金の額に算入する金額は、原則として、その販売若しくは譲渡をした資産の引渡の時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額とすることを法令上明確化する。
 この場合において、引渡の時における価額又は通常得べき対価の額は、貸倒れ又は買戻しの可能性がある場合においても、その可能性がないものとした場合の価額とする。

・ 資産の販売等に係る収益の額を実質的な取引の単位に区分して計上できることとするとともに、値引き及び割戻しについて、客観的に見積もられた金額を収益の額から控除することができるとする。 

・ 資産の販売等に係る収益の額は、原則として目的物の引渡又は役務の提供の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入することを法令上明確化する。

・ 返品調整引当金制度は廃止する(経過措置有)。

・ 長期割賦販売等に該当する資産の販売等について延払基準により収益の額及び費用の額を計算する選択制度は、廃止する(経過措置有)。 

租税特別措置においては、高度省エネルギー増進設備等の取得をした場合の特別償却又は税額控除、再生可能エネルギー発電設備等の取得等をした場合の特別償却、情報流通円滑化設備の取得等をして東京圏以外の地域内において事業の用に供した場合の特別償却、企業主導型保育施設用資産の取得等をした場合の割増償却の制度が新設されています(すべて平成30年4月1日から平成32年3月31日までの間に取得した場合)。
また地方創生の実現に向けて、地方拠点強化税制において東京一極集中の是正を図るという趣旨を明確にし、首都圏から地方に移転する企業が本税制を積極的に活用するよう促すため、主として移転型事業について、支援対象地域の追加と税額控除の見直し、雇用増加要件についての適正化など、適用範囲及び要件について所要の見直しが行われます。

Ⅳその他

 消費課税に関しては、観光立国実現のため日本からの出国に広く薄く負担を求める国際観光旅客税(仮称)が創設され(平成31年1月7日以後の出国に適用)、外国人旅行者向け消費税免税制度の利便性の向上が図られます(平成32年4月1日以後に行われる課税資産の譲渡等について適用)。その他消費税における長期割賦販売等に該当する資産の譲渡等について延払基準により資産の譲渡等の対価の額を計算する選択制度は廃止します(経過措置有)。
 国際課税に関しては、「恒久的施設」の定義について租税条約と国内法の適用関係を明確化し、恒久的施設認定の人為的回避に対応する見直し(平成31年分以後の所得税及び平成31年1月1日以後開始する事業年度分の法人税)、外国子会社合算税制における対象外国関係会社に該当する場合の会社単位の合算課税の適用対象金額、部分対象外国関係会社に該当する場合の部分合算課税の対象となる受動的所得から除外されるものの範囲等について、見直しが行われます(平成30年4月1日以後に開始する事業年度)。
 納税環境の整備に関しては、大法人について法人税等の電子申告を義務化し(平成32年4月1日以後開始事業年度)、法定調書や所得税の年末調整手続についても、一層の電子化に向けた措置を講ずることになっています。また、地方税の電子納税について、安全かつ安定的な運営を担保するために必要な措置を講じつつ、全地方公共団体が共同で収納を行う仕組みを整備することとなっています。

以 上