2017年08月07日 更新
乙藤 貴弘
企業会計基準委員会(ASBJ)は、平成29年7月20日に企業会計基準公開草案第61号「収益認識に関する会計基準(案)」及び企業会計基準適用指針公開草案第61号「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」を公表しました。
日本ではこれまで収益認識に関する包括的な会計基準が開発されていませんでしたが、国際会計基準審議会(IASB)及び米国財務会計基準審議会(FASB)が共同して収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行い、平成26年5月に「顧客との契約から生じる収益」(IASBにおいてはIFRS第15号、FASBにおいてはTopic606)を公表しました。これを受けてASBJは平成27年3月に我が国における収益認識に関する包括的な会計基準の開発に向けた検討に着手することを決定した後、平成28年2月に適用上の課題等に対する意見を幅広く把握するために「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」を公表し、寄せられた意見を踏まえ検討を重ねて、この公開草案を公表することとなりました。
公開草案に対しては、平成29年10月20日(金)までコメントが募集されています
公開草案は以下の基本的方針に沿って開発されています。
(1)基本的な方針として、IFRS第15号の基本的な原則を取り入れることを出発点として会計基準を定めることとするが、我が国で行われてきた実務等に配慮すべき項目がある場合には比較可能性を損なわない範囲で代替的な取扱いを追加する。
(2)連結財務諸表に関する方針として、IFRS第15号の定めを基本的にすべて取り入れ、適用上の課題に対応するために代替的な取扱いを追加的に定める場合でも国際的な比較可能性を大きく損なわせないことを基本とする。
(3)個別財務諸表に関する方針として、基本的には、連結財務諸表と同一の会計処理を定めることとする。
会計処理については、原則としてIFRS第15号と同様の内容とされています。すなわち、約束した財又はサービスの顧客への移転を、当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益の認識を行うということです。基本となる原則に従って収益を認識するために、次の(1)から(5)のステップを適用します。
(1) 顧客との契約を識別する。
(2) 契約における履行義務を識別する。
(3) 取引価格を算定する。
(4) 契約における履行義務に取引価格を配分する。
(5) 履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する。
なお、原則として顧客との個々の契約ごとに判断することになります。
ただし、これまで我が国で行われてきた実務等に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、IFRS 第15 号における取扱いとは別に、重要性等に関する代替的な取扱いを定めています。例えば、一時点で充足される履行義務について、国内で販売する商品又は製品について、出荷時から支配移転時点(例えば検収時)までの期間が通常の期間である場合には、支配移転時までの一時点(出荷時等)で収益を認識することができるとしています。
適用時期については、原則として、平成33年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用します。なお、早期適用も可能です。
適用初年度の取扱いについては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用します。ただし、遡及適用には経過措置が設けられています。
強制適用はまだ先ですが、全ての収益取引を対象に会計処理の変更が必要な取引を洗い出すことが必要になります。また、従来と収益を認識する時期又は額が大きく異なる場合、企業において経営管理及びシステム対応を含む業務プロセスを変更する必要性が生じる可能性がありますので、早めの対応が求められると思います。
ASBJのホームページ
https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/exposure_draft/y2017/2017-0720.html
以 上