2016年12月12日 更新
剱持 健
企業会計基準委員会(ASBJ)は平成13年より民間の独立した会計基準設定主体として、日本の会計基準の設定を行ってきています。同委員会では、過去3回にわたり「中期運営方針」を作成・公表してきており、今年8月12日に新たな「中期運営方針」にて、今後3年間の日本の会計基準の開発の基本的な方針等を公表しています。また、「現在開発中の会計基準に関する今後の計画」にて、現在開発中の会計基準についての検討状況・基準化の目途等を随時公表しています(適宜更新されており、平成28年11月22日に最終更新(11月24日現在))。
国際会計基準への収斂などの影響もあり、日本の会計基準は改定が繰り返されてきていますが、今後も日本基準を国際的に整合性のあるものにするための会計基準の改定・新設や、新たな制度に対応した会計基準の開発などは、上記で公表されている方針に基づき継続的に行われることになると考えられます。そのため、これらに含まれている内容を知っておくことは、今後の会計基準の動向を事前に知り、場合によっては事前に対策を検討するためには有益な情報と考えられます。
以下それぞれから、いくつかのトピックスについて、どのような方向性が打ち出されているのかについて一部抜粋し、ご紹介したいと思います。
今回抜粋したもの以外にも取り上げられているテーマもありますし、方針の背景の説明の記載もありますので、それぞれをご一読されることをお勧めいたします。
「中期運営方針」(https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/middle_plan/)
「現在開発中の会計基準に関する今後の計画」(https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/plan/index.shtml)
【中期運営方針】
① 収益認識に関する会計基準
現在、日本基準の体系の整備を図り、日本基準を高品質で国際的に整合性のあるものとする等の観点から、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」を踏まえた収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行っている。
平成28年2月に、「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」を公表しており、同意見募集に対して寄せられた意見や適用上の課題を踏まえ、基準開発に向けて審議を行っている。この包括的な会計基準については、平成30年1月1日以後開始する事業年度に適用が可能となることを当面の目標として、最も優先的に検討を進めていく。
② 引当金に関する会計基準
中期運営方針を策定する過程で、引当金について包括的な会計基準を開発すべきではないかとの意見があるが、引当金に関するIFRSの取扱いは、現在、IASBにおいて行われている概念フレームワークの見直し及びIAS第37号のリサーチ・プロジェクトに関係するため、IASBによる当該審議の完了後、我が国における会計基準の開発に向けた検討に着手するか否かの検討を行うことが考えられる。
③ 減価償却に関する会計基準
日本基準においては、固定資産の減価償却に関する会計基準が存在せず、法人税法上の損金算入について損金経理要件が定められていること等に関連して、いわゆる税法基準が広く用いられている。(中略)今後、減価償却に関する会計基準の開発に着手することの合意形成に向けた取組みを行う予定である。
【現在開発中の会計基準及び指針等に関する今後の計画】
① 収益認識に関する会計基準
平成28年2月4日「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」を公表。平成28年5月31日コメント締め切り。
現在、同意見募集に対して寄せられた意見や適用上の課題を踏まえ検討中。
基準開発に向けた検討にあたっては、IFRS第15号及びTopic 606の強制適用日を踏まえ、平成30年1月1日以後開始する事業年度に適用が可能となることを念頭に置き、平成29年6月までに公開草案を公表することを目標として、会計基準の開発を進めている。
② 税効果会計に関する指針
日本公認会計士協会が公表してきた実務指針について、ASBJに移管作業中。
当期税金に関する会計基準については、「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準(案)」を平成28年11月9日に公表済み(コメント期限:平成29年1月10日)。
また、「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」、「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」等について、適用指針の公開草案の公表に向けた検討を行っているが、現時点において、公開草案の公表の目標時期は定めていない。
③ リスク分担型企業年金に係る会計処理に関する指針
平成28年度に新たに制度化することが予定されている企業年金制度であるリスク分担型企業年金に係る会計処理に関する指針を開発することを目的として検討を行っている。
平成28年6月2日に、「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)」等を公表しており、平成28年8月2日にコメント締め切り。現在、公開草案に寄せられたコメントを踏まえ、平成28年12月に最終化することを目標として検討を進めている。
④ 一括取得型による自社株式取得取引に係る会計処理に関する指針
米国で実施されている一括取得型による自社株式取得取引(ASR:Accelerated Share Repurchase)について、我が国企業が実施した場合の会計処理に関する指針を開発することを目的として検討を行っている。
平成27年1月より検討を開始しており、公開草案の公表に向けて検討を行っているが、現時点において、公開草案の公表の目標時期は定めていない。
⑤ 権利確定条件付きで従業員等に有償で発行される新株予約権の企業における会計処理に関する指針
権利確定条件付きで従業員等に有償で発行される新株予約権の企業における会計処理について、会計上の取扱いを明確化することを目的として検討を行っている。
平成27年10月より検討を開始しており、公開草案の公表に向けて検討を行っているが、現時点において、公開草案の公表の目標時期は定めていない。
⑥ 公共施設等運営権に係る会計処理に関する指針
プライベート・ファイナンス・イニシアティブ(PFI)事業における公共施設等運営権に係る会計処理に関する指針を開発することを目的として検討を行っている。
平成28年1月より検討を開始しており、平成28年12月に公開草案を公表することを目標として検討を進めている。
⑦ 実務対応報告第 18 号の見直し
実務対応報告第 18 号「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」について、在外子会社が国際財務報告基準(IFRS)に準拠している場合、資本性金融商品に関するノンリサイクリング処理について親会社の連結財務諸表を作成するうえで修正を要するとすべきか等について、修正項目の見直しの検討を行っている。また、親会社が日本基準、国内子会社が IFRS を適用している場合、親会社の連結財務諸表作成において実務対応報告第 18 号を適用できるように実務対応報告を修正すべきかについても検討を行っている。
平成28年9月より検討を開始しており、平成28年12月に公開草案を公表すること、及び平成29年3月までに最終化することを目標として検討を進めている。
⑧ マイナス金利に関連する会計上の論点への対応
マイナス金利に関連する会計上の論点のうち、退職給付債務の計算における割引率について、会計上の取扱いを明確化することを目的として検討を行っている。
実務対応報告等の公開草案の公表を経て、平成29年3月までに最終化することを目標として検討を進めている。
その他、開発の目標時期が未定となっている開発予定の会計基準・指針のテーマとして「「企業結合に関する会計基準」に係る条件付取得対価の取扱い」、「子会社株式及び関連会社株式の減損とのれんの減損の関係」が挙げられています。
以 上