監査提言集

2016年08月15日 更新

乙藤 貴弘

平成28年7月1日に今年の監査提言集が公表されました。この監査提言集は日本公認会計士協会が平成20年から公認会計士協会会員・準会員の監査業務改善のために実際の監査業務審査会の審査内容を参考にして作成されるものです。会員・準会員向けのものは88ページにも及ぶ超大作ですが、今年から、会員のみならず会員以外の一般の方にも公表してはどうかというご意見もあることから、「監査提言集」におけるポイントを集約した「監査提言集(一般用)」を日本公認会計士協会ウェブサイトに公表することとしました。
 この監査提言集は会員・準会員にとって、非常に有意義なものであることはもちろんのことですが、一般の方にも監査業務や監査人の観点などを理解していただくにはとても役立つものになっておりますので、ぜひ一読されてはいかがでしょうか。

「監査提言集(一般用)」では、この提言集を次のように要約しています。
○ 監査人は、内部統制を含む企業及び企業環境の十分な理解を通じて、財務諸表の重要な虚偽表示リスクを識別し評価することが必要である。
○ 監査人は、業界慣行や一般的なビジネスに関する知識、一般常識を踏まえることも必要である。
○ 経営者不正又は経営者の主導する組織的不正が行われる場合、監査上、不正による重要な虚偽表示を発見することが難しくなる。不正リスクを適切に識別・評価するため、経営者の誠実性は慎重に検討することが必要である。
○ 会社が作成する財務諸表は、様々な立場の人がその信頼性に注目している。監査人は、財務諸表に信頼性を付与するという監査の目的と役割を忘れてはならない。

また、11の提言を掲げています。
(11 の提言)
1.契約書等の証憑が揃っていることと取引が実在することとは必ずしも同じでない場合があるので注意が必要である。
2.監査証拠の証明力の強弱の適切な評価が必要である。特に質問の回答を鵜呑みにしない。
3.重要な虚偽表示リスクは、常時変化する可能性があるため、変化を見過ごさない対応が必要である。
4.監査手続は、監査人として納得感を得るまで慎重に実施することが大切である。
5.新しい業務や事業等は、新たに重要な虚偽表示リスクを生み出すことがある。
6.投融資は、経済合理性だけでなく、事業上の合理性を吟味し、その内容を十分把握できるまで監査の結論を出せない場合がある。
7.損失処理することと重要な虚偽表示リスクが解消することとは別の問題である。
8.時間的制約のある監査人交代は、重要な虚偽表示リスクを著しく高めることがある。
9.会計基準の適用には、その設定趣旨を尊重した正しい理解が必要である。
10.連結子会社等にも虚偽表示リスクは親会社と同様に存在する。グループの全体統制と構成単位の環境の理解を深めることが必要である。
11.監査調書は、監査人の行為の正当性を立証する唯一のものである。

その他監査のあらゆる場面での考慮すべきポイントが列挙されています。

昨今いわゆる一般に知られた大企業による不正会計が頻発しています。公認会計士の本来の目的は不正の摘発ではありませんが、一旦不正が発覚すれば、監査人にとっても、会社にとっても、不正を行った者にとっても大きなダメージが残ることになります。このような不正は当然一般的な話ではありませんが、監査人にとっては、この提言集を読むことによってリスクに対する忘れがちな視点を取り戻し、不正・誤謬を未然に防ぐ一助になると思います。

以  上