未来の監査

2016年07月11日 更新

上田 昌宏

日本公認会計士協会は平成28年3月28日にIT委員会研究報告第48号「ITを利用した監査の展望~未来の監査へのアプローチ~」を公表しました。この報告書ではCA(Continuous Auditing 継続監査)をはじめとした新しい監査手法が取り上げられ、未来の監査に関して考察がされていた(とはいえ10年以上先の未来のことでもないと思います。)のでここではそれを取り上げます。

 CAとは、監査人に、主題に対する事象の発生と同時又は直後に保証を提供することを可能にする監査手法で、具体的には被監査対象会社のシステムからデータを抽出し、監査人の用意したサーバ上に分析機能等を組み込むことによって常時監査を行うものです。例えば、被監査会社における取引や仕訳が監査人の設定した条件に該当した場合にシステムに組み込まれた監査機能によってその条件に該当した取引や仕訳を記録してその記録を監査人が確かめることによって不正の有無などを検証することができるような手法です。
CAの特徴としては、会社が取引発生を会計システムに記録すると同時に監査を行ない、条件に合致したものがなければその時点で監査が完了するというもので、監査の早期化に役立ちます。また、条件設定に使用する情報は利益率や成長率等の財務情報のみならず、社員スキルや生産計画の達成度といった非財務情報も使用することになるので、そこで得られる情報は監査のみならず会社の事業そのものに有用な情報になり得ます。
 CAを行うための条件としては、会社のシステムと監査ツール(CAシステム)を連動させる必要があるため、会社の協力が必要になります。また、CAで監査を行うためには抽出する取引の条件設定(リスクシナリオの設定)が最も重要になります。そのためには会社ビジネス(外部環境も含めて)に対する深い理解のみならず、大量のデータを扱ってその傾向や特徴を条件として設定するため回帰・分散分析、データマイニング、SQL、確率論など統計学の知識も必須になってきます。

 このように、特に確率論・統計学を活用した条件設定が最も重要になりますが、逆に統計学的な知見があれば、100万件のデータの中から1,000件という膨大なサンプルを抽出して証憑突合を行うよりもはるかに強い心証を形成することができ、期末における手続を大幅に削減することもできるようになります。CAがうまく活用できれば、監査システムがエラーを知らせない限りは、基本的には監査人は特別な追加手続をする必要はなく、随時モニタリングをしていれば監査を終了することができるようになるかもしれません。そうすると、監査チームという考え方も、年間を通じて数名から数十名の監査チームが特定の被監査会社のために編成されるというよりは、監査用プログラムが何らかの異常値やエラーを発見した場合に、その異常値やエラーの原因分析や監査意見への影響を検討するチームというものに変化する可能性もあります。

 ディープラーニング(深層学習)で自ら進化し囲碁で世界のトップ棋士に勝利するなど、昨今のIT環境の変化はめまぐるしく、今後そのスピードは益々加速していくことが容易に想像されます。特に昨今の人工知能の発展は知的産業を含めた広範囲の分野で自動化を可能にしていくようです。これは会計や監査の分野にもいえることかと思います。このように、上述のCAのみならず、ビッグデータを活用した監査や人工知能を活用した監査など、未来の監査ではITの活用はこれまで以上に重要になってくると思われます。

以  上