組織再編税制に係る包括的否認規定の適用について

2016年04月12日 更新

木頭 孝男

インターネットサービス事業をメイン事業とする大手企業のヤフーが行った合併が、法人税法132条の2に規定する「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するか否かに関する最高裁判決が平成28年2月29日に下され、納税者の請求が棄却され納税者敗訴で確定した。

本件は、被合併会社であるa社が抱える未処理欠損金542億円を全て処理するために、合併前にa社株式をヤフーが全株取得し、繰越欠損金の引継制限が課されない適格合併を実施したことに端を発する。ヤフーは、子会社であるa社と支配関係を生じた日が合併事業年度開始の日の5年前の日以後であるため、このまま合併しても繰越欠損金の引継制限が課される(法人税法57条3項)ため、みなし共同事業要件を満たすような合併を実施する。

みなし共同事業要件は、①合併法人と被合併法人の事業が相互に関連し、相互の事業規模が一定の要件を満たしているか、あるいは②合併法人と被合併法人の事業が相互に関連し、両者の特定役員に関して一定の要件(特定役員引継要件)を満たしているかが求められる(法人税法施行令112条)。

本件において、②の要件を満たすべく合併前においてヤフーの代表取締役bがa社の取締役副社長に就任したのだが、麻布税務署長が本件副社長就任を含むヤフーの一連の行為は,特定役員引継要件を形式的に満たし,本件欠損金額をヤフーの欠損金額とみなすこと等を目的とした異常ないし変則的なものであり,これを容認した場合には,法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるとして,法人税法132条の2に基づき,本件欠損金額を上告人の欠損金額とみなすことなく上告人の本件事業年度に係る所得金額を計算し,本件更正処分等をしたものである。

最高裁の判決において、法人税法132条の2に規定する「法人税の税負担を不当に減少する結果となると認められるもの」とは、「法人の行為又は計算が組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり,その濫用の有無の判断に当たっては,①当該法人の行為又は計算が,通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり,実態とは乖離した形式を作出したりするなど,不自然なものであるかどうか,②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮した上で,当該行為又は計算が,組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって,組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当である。」と判示している。

法人税法132条の2と類似する規定として法人税法132条の同族会社等の行為又は計算の否認規定があるが、裁判例・学説においてこの規定における「法人税の税負担を不当に減少する結果となると認められるもの」の解釈に当たっては、取引が経済取引として不合理又は不自然であるような場合に該当するとされていたが、今回の最高裁判決により法人税法132条の2の適用にあたっては、同法132条と同様の判断基準とはならないことが明確になったのではないだろうか。今回の判決が、今後の組織再編税制に大きな影響を与えるものと思われる。

以  上