有給休暇引当金について 

2015年08月10日 更新

公認会計士 篠原 敬海

国際的な会計基準を比較すると、国際財務報告基準や米国基準において、明確な規定があるにもかかわらず、日本基準において明確な規定がないものがあります。例えば、有給休暇引当金(未払有給休暇)に関しては、現時点で日本基準において、規定はなく認識すべき債務とはなっていません。(例えば、退職給付引当金は計上するのに、)なぜ、有給休暇引当金は計上しなくてよいのか?なぜ、日本基準で求められていないのか?という疑念を抱くことがあります。ここで、有給休暇引当金が日本基準に導入されていないことについて、少し検討してみます(すべて私見です)。

引当金に関する論点の整理(平成21年9月8日 企業会計基準委員会)においては、以下のような記述があります。

有給休暇引当金
企業と従業員との間の契約により、従業員が有給休暇を消化した場合にも対応する給与を企業が支払うこととなっている場合には、企業は、期末日時点で従業員が将来有給休暇を取る権利を有している部分について債務を負っている。このため、国際的な会計基準では負債に該当するとされている。これまで我が国においては、一般的に有給休暇引当金は計上されてこなかったが、我が国における労務制度や慣行の実態を考慮しつつ、国際的な会計基準とのコンバージェンスも勘案して取扱いを検討する必要があるものと考えられる。

ここで、有給休暇引当金とは、簡単に説明すると、有給休暇制度がある会社において、従業員が有給休暇を消化した場合に(有給消化日数に関して、従業員が労働することなく)給与支払義務があることを勘案し、期末時点で未消化(期末日までの労働に起因する将来の有給発生の可能性や将来の消化見込を考慮)有給日数を、企業が負うべき債務と考え、債務計上するものです。

会計学的な見地から引当金の要件を満たすかどうか、形式的側面から簡単に検討してみます。

引当金の4要件
① 将来の特定の費用または損失であること
② 発生が当期以前の事象に起因すること
③ 発生可能性が高いこと
④ 金額が合理的に見積り可能であること

検討:
① 有給休暇に対する給与支払義務があるため、将来の特定の支出(将来の費用と当期の費用とするのは違和感があるので、将来の特定の支出として検討。)に該当。
② 発生は、当期以前の従業員の労働という事象に起因するため、該当。
③ 有給休暇の消化について、消化率を勘案すれば、高い発生可能性があるため、該当。
④ 過去の消化率等から将来の消化日数を推定できるため、金額を合理的に見積もることが可能であり、該当。

形式的には、引当金の4要件を満たしているとも考えられますが、実質的側面等から、その要否を検討してみます。

【日本の労働文化】
日本においては、高度経済成長の時代等に、(月月火水木金金の精神等で、)有給を消化することなく、少ない休みの中で、働いてきたことを斟酌すると、必ずしも有給休暇引当金に関する会計基準をわが国の会計基準として無条件に受け入れることは、感覚に合わないのではないかと思料しています。
また、終身雇用を前提とすれば、退職して有給を買い取るということが、定年時の想定になるため、有給休暇に対する給与支払義務は顕在化しないとも考えることができます。 愛社精神で働き、そもそも有休を消化することを不要と考える方もいるかもしれません。(個人的には、有給消化は従業員の権利であり、合理的な範囲で消化すべきものと思っています。)

さらに、有給を消化しようがしまいが、結局のところ、与えられた業務は有休を考慮せずに決定されている可能性もあるのではとも思っています。その場合、有給を消化してもしなくても従業員の労働は、退職するまで有給休暇の影響なく企業が享受できるとも考えることができます。上述のように、終身雇用を前提としているため、有給休暇に対する給与支払義務は必ずしも顕在化しておらず、わが国においては、有給休暇引当金の計上について、あまり論点として取り上げられてこなかったものと思料しています。

なお、日本人の多くは、仕事に対してポジティブです。 日本には、遊戯三昧(ゆげざんまい)という言葉もあり、遊ぶことや楽しむことをするのではなく、せっかく与えられた仕事であれば、することを一生懸命に遊び、主体的に取り組み、目の前の仕事の一つ一つを、(例えば、改善できるところはないか考え、改善を繰り返し、時間を短縮させながら、)労働者の境地に立ち、行う方々も少なくはないと思います。

こうした日本独自の労働文化、慣行及び影響額の程度等を勘案すると期末時点での未消化有給休暇に対する有給休暇引当金(金額が確定していないため、引当金と考えます。)を計上しないことは、許容されているものと思料しています。

ここで国際財務報告基準や米国基準の有給休暇引当金(未払有給休暇)の取り扱いについて、少しご紹介いたします。

【国際財務報告基準】
IAS第18号においては、短期有給休暇の項にて、①累積的有給休暇(当期の権利の全てを使用しなかった場合に翌期以降使用できるもの)に関しては、有給休暇に関する債務を計上することを求めています。
具体的には、①-1.従業員が離職するときに未使用の権利について現金の支払いを受ける権利を有しているもの(権利確定型)に対して、期末時点で累積されている未使用の権利の結果により企業が支払うと見込まれる金額を測定及び認識することが必要となります。
また、①-2.離職時に未使用の権利について現金の支払いを受ける権利を有さないもの(権利不確定型)についても従業員が将来の有給休暇の権利を増加させる勤務を提供した時に、債務は発生し、(従業員が当該有給の権利を行使することなしに離職することを考慮し、)測定及び認識することが求められます。
さらに、②非累積型有給休暇(当期に使用しなかった権利は、繰り越されずに失効し、離職に際して、未使用の権利について従業員に現金を支払う権利は付与されないもの)に関しては、出産、育児休暇や陪審義務に関する有給休暇がこれに該当し、企業は休暇取得の時に使用される権利に対する現金の支払義務が生じるため、休暇取得時に債務を測定及び認識する。

【米国基準】・・アメリカの会計基準 山田昭広著 を引用
米国基準においては、雇用者は、次のすべての条件を満たす場合には、将来従業員に支給する給与のうち、有給休暇に対応する部分の金額を負債として計上することが求められています。
A.将来有給休暇をとる権利に関連して雇用者が支払うべき給与の金額が、すでに提供された役務に基づくものであること(将来の特定の支出又は費用、当期又は当期以前の事象に起因)
B.有給休暇をとる権利が確定し、または累積するものであること ここで確定とは、退職しても雇用者が支払わなければならないように雇用者が支払義務を負っている場合をいい、累積とは、繰越期間に制限がある場合を含み、未消化の有給休暇を翌年度又は翌年度以降に繰り越すことができることをいう。
C.従業員が有給休暇をとり、対応する給与を支払うことが確からしいこと(発生の可能性が高い)
D.対応する給与の金額を合理的に見積もることができること(合理的に見積可能)

上記を勘案した算定式:
[当年付与次年消化見込日数 + 次年付与(当年の労働に起因)日数次年以降消化見込日数] × 期末月一日あたりの平均給与

今後、国際財務報告基準とのコンバージェンスがより一層進んでいく中で、日本基準としても、資産除去債務のように、いずれは有給休暇引当金の計上が求められる可能性がないとはいえないと感じています。