「資産の流用」の二次的な被害

2015年03月09日 更新

 

公認会計士 木頭孝男

 

先日、包装材製造販売会社の元執行役員が、業務上横領罪で大阪地検特捜部に起訴されました。産経新聞の記事によれば、被害額は約6年間にわたって総額1.3億円だったようであります。

手口の詳細は分かりませんが、このような横領は売上の除外や架空の経費を計上するといった行為を伴うことが多いといえます。そのため、会計上は「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」に従って、財務諸表の修正再表示が求められることになろうかと思います。

 

税務上は、その横領が売上の除外や架空経費の計上を伴う場合、本来は当初の確定申告に売上を加算あるいは経費を除外しなければなりませんので、その意味で課税所得は増えることになります。会社としては、増えた課税所得に相当する利益を横領されていますので、横領実行者に対して損害賠償請求権を有することになります。この損害賠償請求権が貸倒損失の計上要件を満たさない場合、横領による被害額を損失計上できないため課税所得だけが増加し、修正申告をせざるを得ないことになります。会社としては、横領された上に修正申告というダブルパンチとなってしまいます。

 

これは、横領された時点で会社は即時に損害賠償請求権を取得しているという前提に立っているために起こる現象であるといえます。しかし、例えば、会社の建物にトラックが突っ込み被害を受けて損害賠償金がなかなか取得できない場合などは、このような前提に立つと被害額をいつまでも損失計上できないことになり、不合理な結果となります。

そこで、法人税法基本通達2-1-43において「他の者から支払いを受ける損害賠償金の額は、その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、法人がその損害賠償金の額について実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には、これを認める。」としています。

 

しかし、横領のケースではこの通達を適用することはできません。法人税法基本通達逐条解説によれば、「法人の役員又は使用人から受ける損害賠償金はその取扱いの埒外としており、法人の役員又は従業員による法人財産の横領を発生原因とする損害賠償金については、横領により被った損害の発生事業年度の益金に算入することが予定される」としています。

結局のところ、横領のような場合損害賠償請求権を貸倒損失として計上できなければ、修正申告となってしまいます。

 

会社の被害はこれだけにとどまらない可能性があります。それは重加算税の問題です。

国税通則法68条1項によれば、「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは」重加算税が課されます。

 

ただし、重加算税の附加は、過少申告加算税の適用がある場合に限定されるために、税務調査などで横領が発覚した場合が問題となります。横領行為自体が、通常仮装・隠ぺい行為を伴うものであるために、その横領行為が納税者自信すなわち法人の行為であると認定されれば、確実に重加算税の附加決定処分がなされます。

 

最近の国税不服審判所の公表裁決事例を見ると横領行為が納税者自信の行為であると認定されるかどうかのポイントは、①横領行為をした人物が会社の職制上重要な地位についているか、②当該横領行為は納税者自信が相当の注意義務を尽くせば発見できたものであったか、③当該横領行為がその行為者の私的利益を図る目的であったか、の3点に集約できるように思います。

 

すなわち、役員や従業員であっても経営に参画しているものと認められるような者が、仮装・隠ぺい行為をすればそれは法人自身の行為と同視できるものであるし、そのような者でなかったとしても、法人の内部統制に致命的な問題があり、通常であれば発見できるような仮装・隠ぺい行為が発見できなかった場合や、その目的が明らかに課税所得の圧縮であるような場合は、重加算税が課されることになると考えられます。

 

 

冒頭に述べた事件が税務調査に端を発している場合、その横領の手口にもよりますが実行者が執行役員であるということを考慮すると、最悪の場合、重加算税が附加される可能性も無いとは言えません。このような横領に代表される「資産の流用」は、それ自体の経済的損失のみならず、修正申告に伴う過少申告加算税や延滞税、重加算税といった二次的な経済的損失を引き起こす可能性があり、ある程度をコストをかけても、このような不正を防止するための内部統制をしっかりと構築する必要があると考えます。