睡眠(休眠)預金

2015年02月07日 更新

公認会計士 槇田憲一郎

平成27年1月7日付の日本経済新聞(朝刊)の社説において睡眠(休眠)預金のことが触れられていた。記事によると、睡眠(休眠)預金は毎年全国で800億円以上発生し、後に預金者から返還請求があっても500億円程度は残るといわれる。この睡眠(休眠)預金を社会問題の解決のために利用しようという議員立法の動きがあり、超党派の議員連盟は今年の通常国会への法案提出を目指しているということだ。

預金は預金契約によって発生する銀行等に対する金銭債権であり、消滅時効が適用される。銀行に対する預金は商事債権であるため時効は5年と解されており(商法522条)、信用金庫や信用組合に対する預金は民事債権であるため時効は10年とされている(民法167条1項)。この点、全国銀行協会では、最終取引日以降払出し可能の状態であるにもかかわらず長期間異動のないものを睡眠(休眠)預金といい、実務上の取扱いとして最終取引日以降10年を経過した睡眠(休眠)預金については所定の手続を経て負債認識を中止し利益金として計上するよう通達として規定している。

ただし、負債認識を中止し利益金として処理した後でも、預金者は所定の手続を経て引き出すことができるのが一般的である。睡眠(休眠)預金の発生や残高が記事の通りだとすると、毎年発生する800億円以上の睡眠(休眠)預金に対してその後の払い戻しが300億円程度生じることとなる。とすると現状において銀行等はこの払い戻しに備えて会計上の手当てが必要になると考えられる。

ここで平成26年3月期の有価証券報告書をみると『睡眠預金払戻損失引当金』という科目で会計処理を行っている銀行等が多く見受けられた。会計方針をみると『睡眠預金払戻損失引当金は、一定の条件を満たし負債計上を中止した預金について、預金者からの払戻請求に備えるため、過去の払戻実績に基づく将来の払戻損失見込額を計上しております』などのように記載されている。

睡眠預金払戻損失引当金を企業会計原則注解18の引当金要件に当てはめてみると、私見だが、次のように考える。
① 負債認識を中止し利益金として計上した後に預金者からの払戻請求に応じた場合、銀行等に費用が発生するため、将来の特定の費用であるといえる。
② その発生は、払出し可能の状態であるにもかかわらず預金者が長期間入出金取引を行わず、当該睡眠(休眠)預金に対して銀行等が負債認識を中止し利益金としたことによるものであり、当期以前の事象に起因している。
③ 全体として過去の払戻実績をみれば負債認識を中止した睡眠(休眠)預金のうちどれくらい払い戻しが生じたかがわかり、継続して払戻実績があれば睡眠(休眠)預金の一部は払い戻しの可能性が高いといえる。
④ 過去の実績が概ね将来も当てはまると仮定すると、全体として過去の払戻実績をみれば負債認識を中止した睡眠(休眠)預金のうちどれくらい払い戻しが生じる可能性があるかがわかり、金額を合理的に見積ることができるといえる。
以上から、引当金の要件を満たしているといえる。

銀行等の多くがこのような引当処理を行っているが、今後睡眠(休眠)預金を活用する動きが本格化し稼働することとなれば、活用するしくみや活用する睡眠(休眠)預金の範囲にもよるが、将来的には睡眠預金払戻損失引当金というものはなくなるのかもしれない。睡眠(休眠)預金について負債認識を中止することにより、その一部を税金として納めており、また残りについても銀行等の役割が正常に果たされるなら、わざわざしくみを作って活用しなくても良いとは個人的に思うが、もし睡眠(休眠)預金を公共性の高い社会問題の解決に活用するなら、その効果が期待できるしくみを作り活用して欲しい。残念ながら私の預金は睡眠(休眠)預金ではないが・・・。