ASEAN(タイ・シンガポール中心)情勢近況

2014年03月10日 更新

公認会計士 相川聡志

米国経済の復調により先進国市場の上昇・新興国市場の下落というのが新聞等により散見されます。それによって、新興国投資は引き揚げもしくは新規進出を見合わせというような流れができているような書き方がされていますが、これらの記事をそのまま受け止めてASEANへの投資スタンスを決めてはいけません。

ASEAN全体を新興国とひとくくりにする時代は終わりました。2015年に経済統合を目指すASEANは地域全体として経済が回転しはじめています。カンボジア・ラオス・ミャンマー(後進国組)が低賃金労働者を提供し、ミャンマー・インドネシア・マレーシア(資源国組)が石油・鉱物資源を提供し、タイ・ベトナム・インドネシア(工業組)が製造工場兼消費地としてモノ・カネが回るという構図が出来上がっています。

また、日本と中国が競ってODAを出し合ったため、ASEANには縦横無尽に高速道路網が構築されているだけではなく、インド洋に面したミャンマーの港から荷を揚げて、ASEAN陸地で加工し、タイ・ベトナムの港から太平洋側に輸出するというルートが完成されつつあります。これは従来のマラッカ海峡を経ての海路に代替する可能性があると言われています。

2014年に入ってからのアルゼンチン・ペソの急落に端を発した新興国通過の下落時においても、ASEAN地域通貨の下落は1997年の通貨危機当時とは比べ物にならないほどに強くなりました。特に日本企業が多く進出しているタイのTHBとASEAN金融の中心であるシンガポールのSGDは強く、動じておりません。タイのTHBの安定は、タイ経済の発展及びこれに伴う外貨準備高が対外債務を上回る状態の維持、等によりもたらされています。

タイのデモについての日本の報道は真実を伝えきれておりません。タイのデモ参加者はデモ主催者から日当をもらって参加している人達なので、他国で見るような信念を持ったデモとはことなり、一種のイベントです。デモ主催者は資金を拠出してステージを組み、各ステージを回線で結んで、カラオケ大会を開催する等してデモ参加者を飽きさせないようにするなど到底、デモとは言えません。道路が封鎖された後は、歩行者天国状態なので、商売根性を出してみんな露天商売をしています。デモ参加者よりも露天商や観光客の方が多い状態です。添付した写真にあるような中で、日本のテレビ局はヘルメットを被り、防弾チョッキを着用して、叫びながらタイのデモは凄いことになっていると伝えるという、非常に面白い画になっています。

タイ・シンガポールへの進出の流れは相変わらず続いています。日本の貿易赤字・経常黒字の定着化は輸入燃料コストの上昇だけではないのが実感できます。外国子会社等からの配当金については、日本の税制上、配当金額の95%が課税されません。無税です。低税率国の海外に資本を投下し、日本に配当で還元するという経常所得の段階で稼ぐのはある意味成熟した経済と言えるでしょう。

また、最近のトレンドとしてはミャンマー投資の経由地として、シンガポール及びタイが活用されるようになったことです。アメリカ大統領がミャンマーに訪問したことにより、アメリカの庇護のもと、民主化・自由主義経済が導入され、ミャンマーの経済は飛躍的な発展を遂げ始めています。このミャンマー投資をするのに、日本から直接投資というのは余り聞きません。なぜならば、租税条約が日本とミャンマー間で締結されていないため、2重課税を排除することができないからです。ミャンマーと租税条約を締結している国は少なく、シンガポール・タイはその数少ない締約国です。ミャンマー側調査によると資金流入元のNo.1はダントツでシンガポールです。これは租税条約のことだけではなく、シンガポールでのキャピタルゲイン課税なし・インカムゲイン課税なし、といった税制の活用も絡めての有利性からきていると言えます。

なお、日本だけが一歩引いた見方をしているASEAN諸国の中で、最近顕著に発展しているのがフィリピンです。フィリピンは日本以外の国はこぞって優良な投資先(低賃金にも関わらず、英語が使える)として資金を投下しています。アメリカ系の有名な超高級ホテルや超高級コンドミニアムも続々とオープンし始めており、治安の面も改善が進んでいると言えます。

低賃金の話で言えば、カンボジア・ラオス、といったところもあがるのですが、これら2か国は低賃金ではありますが、効率の面からは必ずしも良いとは言えないでしょう。特にカンボジアについては、識字率が低いため、大手の日系企業は自社工場用地内に学校を設け、文字を教えています。文字が読めないと工場でいうカンバンや指図書などは全く意味をなさないからです。大手で余裕があるからこそこのような進出の仕方ができると言えます。
ではラオスはどうかというと、ラオスは人口が少なすぎる上に農作従事者が多すぎます。工場要員を集めるのに、村の長老にかけあって農作業従事者の中から人を連れてくるなどする場合があります。特にASEANの東西回廊の上にあるサバナケットあたりは交通の要衝にある工場地域のため人不足が否めません。ただし、悪い点ばかりではありません。それはタイ語が通じることです。従いまして、日系の会社ではタイ会社に置いておいたタイ人マネージャー等をラオスのコントローラーに据えるなどして日本人駐在員比率を下げているケースが散見されます。

ASENA地域は人口で6億人を数え、資源も有しています。我々、人口減少トレンドにあり、資源もない日本は、ASEAN諸国と良いお付き合いをして経済の発展を模索しなければいけないと思います。